はじめに:なぜ今ガラス基板なのか
AIアクセラレータや高性能コンピューティング向けの先端半導体パッケージは、年々大型化・高密度化が進んでいます。従来の有機基板はガラスクロスと樹脂の積層構造であり、製造プロセスは成熟してコストも低い一方、ダイサイズとI/O密度の増大に伴い、反り制御・CTE整合・配線密度がいずれも物理的な限界に近づいています。こうした課題に対し、ガラスを基材とした次世代基板が注目を集めています。
ガラスベースの実装ソリューションは大きく2つに分類されます。一つは基板コア層をガラスに置き換えた「ガラスコア基板(Glass Core Substrate)」、もう一つはシリコンインターポーザをガラスで代替する「ガラスインターポーザ(Glass Interposer)」です。
ガラスは優れた平坦性・厚み均一性・寸法安定性・剛性を有しており、熱膨張係数(CTE)をシリコンに合わせて調整することで薄板化しても反りを低減できます。また、レーザー加工によってピッチ100μm以下のTGV(Through-Glass Via)形成が可能で、有機材料と比較して誘電損失が低く、ディスプレイ産業で確立された大型パネル製造インフラを流用できるという利点もあります。
TGV形成プロセスの概要と最新技術動向
レーザー加工方式の比較
TGVの形成には主に複数のレーザー方式が用いられており、それぞれトレードオフが異なります。ガラスに孔を形成する手法はいくつか存在し、ビア径・アスペクト比・テーパ角・側壁粗さ・スループット・コストにおいてそれぞれ特性が異なります。高量産向けの主流は、レーザーと化学エッチングを組み合わせた方式です。
超短パルスレーザー(フェムト秒〜ピコ秒)は多光子吸収によってガラス内部に改質ゾーンを形成し、ウェットエッチング時の選択比を高めることでビアを形成します。TGV形成には、レーザー焦点をガラス厚さ方向に走査するスキャニング方式と、フィラメンテーションや回折光学系などを用いて1パルスで一括改質するノンスキャニング方式があります。ノンスキャニング方式は各孔での停止が不要なため、生産性で優位性を持ちます。
一方、CO2レーザーは比較的低コストかつ装置構成がシンプルで、産業用途に広く普及しています。液体支援レーザー加工を用いることで、CO2レーザーは6 W・走査速度11.4 mm/sの条件下で、クラックや焦げのない100〜200μm径のビアアレイ形成が可能とされています。
2024年12月、ギガフォトン株式会社と早稲田大学は、NEDOの事業としてエキシマレーザー直接加工による高生産性TGV加工技術を開発し、板厚100μmのガラス材料に対して加工径20μm以下・アスペクト比5以上・毎秒1,000穴以上の直接加工を実証しました。ギガフォトンは今後、板厚200μmのガラスに対しても加工径20μm以下・アスペクト比10以上・毎秒1,000穴以上を目指した実証試験を継続するとしています。
また、フェムト秒レーザーを用いたアプローチも研究が進んでいます。産業用フェムト秒レーザーをシングルパルス・MHzバースト・GHzバースト・MHz+GHzバーストなど複数モードで使用し、ボトムアップミリング法を組み合わせることで、アスペクト比1:80を超えるTGVが350 msという短時間で形成されたという研究成果が報告されています。
なお、ビア形成後のレーザー誘起残留応力もプロセス上の重要課題です。フェムト秒レーザーパルスによるBorofloat 33ガラスのTGV形成では、適切な前処理なしにマイクロクラックや裏面アブレーションが発生することがあり、これまではレーザードリリング後のエッチングステップで対応されることが多かった。主な問題は熱衝撃による穿孔後の残留応力であり、レーザードリリングパラメータを慎重に調整することで大幅に抑制できることが示されています。
TGVの目標サイズ・アスペクト比・ピッチ
多くのアカデミック研究でTGV形成・メタライゼーションが取り上げられているものの、高量産に向けたスケールアップは繰り返し性と信頼性への厳しい要求から依然として大きな課題とされています。主要な製造目標は、大型ウェーハ・パネルにおいてより小さなビア径・細いピッチ・高アスペクト比を実現することです。
AGCは半導体パッケージ向けのTGV形成において、ガラス厚み0.1〜1.1mm以上に対応した広範な組成・厚みのガラス基板を提供し、ピッチ50μm以上の微細TGVの精密形成に対応しているとしています。
市場リーダー各社は、ビア径50μm未満の加工能力と超薄板ガラスハンドリング技術への大規模投資を進めています。
ガラス基板における貫通ビアの大きな優位点の一つは、直径0.1mm未満と非常に小さなビアをさらに細かいピッチで形成できることです。
TGV銅メタライゼーション:下地形成から充填まで
下地層(シード層)形成の課題と解決策
TGVを電気的に機能させるには、ガラス内壁への銅の確実な密着が不可欠ですが、ガラスは化学的に滑らかで不活性なため、表面処理・洗浄・化学官能化が必要であり、このステップを省略または不十分にすることが、「スキップめっき」や剥離不良の典型的な原因になっています。
シード層の形成手法は複数あります。スパッタリングによる手法では、レーザードリリング後のガラス基板表面とTGV側壁に、密着層として厚さ0.1μmのTi(チタン)、次いで導電層として厚さ1μmのCuを順次スパッタリングする方法が採用されています。この構成はTSV(Through-Silicon Via)技術に類似しており、信頼性が高い反面、ビア内部への均一な成膜が難しく、大面積での両面同時成膜に課題があるとされています。
無電解めっきによるシード層形成も研究が進んでいます。ガラスへの密着性向上のため、まずシランカップリング処理(シラニゼーション)を行い、次いでPdCl₂-TiO₂インクを用いた均一な触媒層をビア内部と基板表面に形成、続けて無電解めっきによりシード層を堆積するという手順が有効であることが示されています。
多層バリア構造による高密着強度の実現も報告されています。TiO₂/TiN/Ru/Cu多層構造を形成したガラス基板で電解めっきを行った結果、Ru/Cu単層(0.50 N/cm)に対して8倍以上となる4.14 N/cm超の密着強度が得られ、STEM・SEM・EDSによる微細組織観察でも多層膜の均一性と拡散バリア機能が確認されています。
銅充填電解めっきプロセスの最適化
TGVへの銅の充填方式は、孔全体を銅で充填する「フル充填(Fully Filled)」タイプと、めっきと誘電体フィラーを組み合わせた「コンフォーマル(Conformal)」タイプに大別されます。
充填品質・均一性の向上に向けたプロセス研究が活発に行われています。シングルステップ電解めっきに代わる多段階(マルチステップ)電解めっきプロセスを用いることで、TGVメタライゼーションにおける銅堆積の均一性が改善されることが報告されています。初期段階で低電流密度を適用するマルチステッププロセスは、Cu堆積の均一性を高め、同時に総めっき時間の短縮も実現しています。
電圧・温度・基板移動速度などのプロセスパラメータを体系的に最適化した研究では、ビア形成をピコ秒レーザードリリングとウェットエッチングの組み合わせで行い、無電解銅めっきによるシード層形成後に直流電解めっきを実施する一連のプロセスフローが評価されています。その結果、低電圧ほどめっき表面が平滑になる一方で処理時間が長くなること、適切な温度(30℃)が堆積効率を高めることが示されています。
添加剤(アディティブ)の活用も重要な研究領域です。シラニゼーション処理によってシード層の密着を高めた後、無電解めっきでシード層を形成し、最終的に特定の添加剤を電解めっき時に導入することで、ボイドのない充填と表面めっき厚の最小化を同時に達成することを目指した研究が進められています。
アニール処理による信頼性向上も確認されています。電解銅めっき後に240℃・30分間の熱アニール処理を行うことで、銅とガラス基板の密着強度が大幅に改善されることが報告されています。
DNPが開発する充填タイプとコンフォーマルタイプ
大日本印刷(DNP)は、510×515mmという大型パネルサイズにおいても次世代パッケージに必要な平坦性と剛性を実現するTGVガラスコア基板を開発しています。製品ラインナップとしては、貫通孔を銅で充填する「充填タイプ」と、貫通孔側壁に沿って金属層を形成する「コンフォーマルタイプ」の2種類を展開する計画です。
DNPが開発したコンフォーマルタイプのガラスコア基板は、新たに開発した工法によってガラスと金属の密着性を高め、アスペクト比9以上という極めて高い貫通電極を実現しています。板厚の制限が少なく、設計の自由度が高いことも特長です。
DNPは2025年12月、埼玉県久喜市の久喜工場内に新設したTGVガラスコア基板のパイロットラインの段階的な稼働を開始し、量産に向けた検証を進めるとともに、2026年初頭にはサンプル出荷を目指すとされています。さらに先を見据え、2028年度の量産開始を目標として生産体制を拡充していく計画です。
SeWaRe(剥離・反り)問題:業界横断の重要課題
SeWaReとは何か
ガラスインターポーザ・ガラスコア基板開発における重大な品質課題の一つが「SeWaRe」現象です。SeWaReは、日本語の「背割れ(せわれ)」がそのままローマ字化されて国際的に用いられている業界用語であり、英語の頭字語ではありません。
具体的には、ガラスコア基板上に形成された有機RDL(再配線層)に発生する強い引張応力が、ダイシング(個片化)工程で生じたダメージや表面の粗さを起点として、ガラスコアを面内方向に割ってしまう現象を指します。ダイシング起因のガラスの微小欠け・微小クラックとして扱われることも多く、ガラスパッケージングの歩留まりを左右する重要な課題として業界で注目されています。
各社のSeWaRe対策
Intelは2026年1月のNEPCON Japanにおいて、EMIBパッケージングとガラスコア基板を組み合わせたサンプルで「No SeWaRe」(微小クラックなし)を達成したと発表しており、この課題への対応が実用化に向けた重要な一歩と位置づけられています。
AIチップ向けインターポーザでは均一に形成された多数のRDL層が必要であり、高精度フォトリソグラフィ・露光・エッチング・めっき技術が不可欠です。業界の関心はTGV(貫通ガラスビア)プロセスから、ガラスパッケージング技術の主要な差別化要素としてのRDL実装・SeWaRe対策へとシフトしています。
TOPPANでは、各ピースのコーナー部を樹脂で構成する構造を提案しましたが、チップ実装時の熱履歴を考慮すると抑制効果が不十分であることが判明したため、各ピースのエッジ部の応力を緩和するエッジ保護材料を適用した結果、熱負荷下でもSeWaRe欠陥を効果的に抑制できることが確認されたとしています。
Samsungグループでは、Samsung ElectronicsとSamsung Displayが次世代ガラスインターポーザ技術を共同開発しており、プロトタイプを年内に製造してグローバルなハイパースケールテック企業へのビジネス展開を目指しているとされています。Samsung DisplayはRDL形成の高精度フォトリソグラフィプロセスに注力する方向とされており、SeWaRe現象の克服が同社の主要技術課題の一つとなっています。
材料メーカーの取り組み
日本電気硝子(NEG)
日本電気硝子は、汎用的なCO₂レーザーおよびレーザー改質・エッチングによるTGV加工に対応した515×510mmサイズのガラスコア基板およびガラスセラミック基板「GCコア®」の提供を進めています。
2025年5月には、AI技術の進化とデータセンター拡大に伴うチップレット技術の普及・パッケージ基板の大型化を背景に、小孔径・狭ピッチTGV形成が可能なレーザー改質・エッチング方式に最適な新材質を開発するとともに、515×510mmの大型サイズでのTGV付きガラスコア基板のサンプル提供体制を整備したことを発表しました。同社は2028年の量産開始を目指して開発を継続しています。
AGC
AGCは材料開発だけでなく、加工技術においても積極的な研究開発を進めています。東京大学との共同研究では、「Bessel TSL吸収」技術を開発し、レーザー加工時のエネルギー利用効率を高めることでTGV形成の高速化実現を目指しています。また、AGCは素材から一次加工(TGV形成)までを一貫して提供する体制を持ち、ガラス組成レベルでの最適化(例:レーザー加工速度向上のための微量添加物調整、誘電損失の極小化など)が可能な点を競争優位としています。
Corning・SCHOTT
Corning・SCHOTT・AGC・日本電気硝子(NEG)などのガラス材料サプライヤーは、CTE整合と低誘電損失に最適化されたサブストレートグレードのガラス組成を提供しています。Corningはサムスングループへのガラス供給でも関与が報じられています。
装置メーカー・加工プロセス企業の取り組み
ガラスコア基板のプロセスは有機基板向けに構築されてきた装置を一から見直す必要があります。有機基板用に設計されてきたデスミア装置・レーザードリル装置・めっき装置・検査装置はすべてガラス向けに再構築が必要とされています。
レーザー加工装置分野では、ギガフォトンの前述の実績のほか、3D ChipsやMICROなどの装置専門メーカーが高アスペクト比レーザードリルソリューションの開発で市場に参入しています。
韓国ではTGV形成・銅充填プロセスの外部委託も視野に入れた動きがあります。Samsung Electronicsは、TGV形成や銅充填プロセスをSoulbrain・Chemtronics・Jungwoo M-Techといった専門パートナーへのアウトソースも検討しているとされています。
日本では日本電気硝子が装置メーカーとも連携しており、ガラスコア基板でビアメカニクスとの共同開発契約を締結するなど(2024年11月)、エコシステム形成が進んでいます。
デバイスメーカー・実装企業の実用化に向けた動き
Intel
Intelは2023年にガラス基板を先端パッケージングのロードマップに組み込んでおり、ガラス基板技術の分野で先行するプレーヤーです。2026年1月のNEPCON Japan 2026では、Intelは初の「Thick Core(厚芯)」ガラス基板技術を公開し、10-2-10構造のガラスコア基板とEMIBパッケージングを統合したサンプルを発表しました。そのパッケージは78mm×77mm(約1,716mm²)に達しており、シングルレチクル限界を超えるサイズです。
Rapidus
日本の国策ファウンドリであるRapidusは、AIチップ向けガラスインターポーザのプロトタイプを開発し、製造コスト削減とTSMCへの挑戦を目指しています。このインターポーザは従来のシリコンウェーハではなく大型の角型ガラス基板から切り出す世界初の試みとされ、2028年の量産開始を計画しています。Rapidusは600mm角のガラス基板を使用しており、大面積・低廃材の設計により、300mm丸形シリコンウェーハと比べ1枚あたり最大10倍のインターポーザが取れる見込みとされています。
ガラスの脆性・ハンドリング困難を克服するため、RapidusはSharpなどの日本のディスプレイメーカー出身のエンジニアを採用し、2025年6月には北海道千歳市のクリーンルームでパイロット生産を開始しました。
SK Absolics
韓国SKグループ傘下のAbsolicsは、米国CHIPS法の助成を受けて7,500万ドルの資金を獲得し、ガラス基板の量産に向けた工場をジョージア州に建設、2024年後半から少量生産を開始し、2026年までに量産へスケールアップする計画を進めています。2026年1月時点でジョージア州コビントンファブへの主要設備導入を完了し、AMDへの量産サンプル供給を開始したと報じられています。
TOPPAN
TOPPANは新設パイロットラインで、大型ガラス基板を用いたインターポーザならびにガラスコアおよび有機RDLインターポーザに関するR&Dを実施し、将来の量産技術を検証する計画です。同社はNEDOのPost-5G向け補助事業においてサブミクロン配線形成技術の開発にも取り組んでいます。石川工場(石川県能美市)に設置するパイロットラインは2026年7月の稼働を目指しており、大阪公立大学・富山県立大学・信州大学等との共同研究も進めています。
コスト・歩留まり:量産に向けた現実的な課題
ガラス基板の商業化に向けては、コスト・歩留まり・ハンドリングに関わる課題が依然として大きいとされています。現状ではガラス基板のコストは有機基板同等品の2〜3倍とされており、製造歩留まりも75〜85%程度で有機基板の90〜95%には及びません。また、ガラスの脆性から専用のハンドリング自動化が必要で、TGV形成や細ピッチRDLプロセスは継続的な最適化が求められます。
コスト面では、600×600mmのパネルレベル処理による量産化が進むことで、2028年頃にはハイエンド有機基板(ABFビルドアップ)との価格同等性達成が見込まれるとする試算もあります。
ガラスがパイロットラインから量産へ移行できるかどうかは、原材料の入手性よりも、レーザードリル・銅充填・パネルハンドリング・設計自動化からなるエコシステムの成熟に左右されます。歩留まりの学習曲線・ビア充填信頼性・パネル反り・設計キットの成熟度が、ガラスが設定されたコスト目標を達成できるかを左右するとされています。
市場規模の観点では、グローバルなTGV製造市場は2025年の約5億800万ドルから2032年には約16億7,000万ドルへ成長し、年平均成長率(CAGR)約19%が見込まれています。これは先端パッケージングおよびMini/Micro-LEDディスプレイ需要によるものとされています。
まとめ:2026年以降の展望
ガラスコア基板・ガラスインターポーザのプロセス開発は、TGV形成技術(レーザー加工・エッチング)の高速化と微細化、銅メタライゼーションの均一性向上、そしてSeWaRe対策を柱として急速に進展しています。材料メーカー(AGC・NEG・Corning・SCHOTTなど)から装置メーカー、デバイスメーカー(Intel・Samsung・Rapidus・Absolicsなど)まで、幅広いエコシステムが形成されつつあります。
業界の専門家は2026年を「バリデーション(実証)の年」と位置づけており、2027〜2028年には主要なハードウェアベンダーからガラスベースのAI製品が本格的に登場してくるとの見方が広がっています。コスト・歩留まりの課題は残るものの、AIアクセラレータや高性能コンピューティングへの需要拡大が技術開発を加速させており、今後数年でガラス基板の実用化が具体化していく見通しです。
参考情報源:NEDO(ギガフォトン・早稲田大学 TGV加工技術開発)|日本電気硝子(NEG)プレスリリース|TrendForce:DNP TGVガラス基板動向|Digitimes:Rapidusガラスインターポーザ発表|The Elec:Samsung Electronics・Samsung Display共同開発|TOPPANパイロットライン設置発表|TrendForce:ガラス基板AI市場分析|Semiconductor Engineering:パネルレベルパッケージングの現実
