窒化ケイ素(Si₃N₄)とは
窒化ケイ素(Silicon Nitride: Si₃N₄)は、シリコン(Si)と窒素(N)から構成される無機化合物で、半導体製造プロセスにおいて極めて多様な用途を持つ「万能材料」のひとつです。絶縁性・耐熱性・耐化学品性・機械的強度のバランスに優れており、前工程から後工程、さらにはパワーモジュール基板まで幅広く使用されています。
半導体プロセスにおける用途
ハードマスク材料
Si₃N₄膜はドライエッチング工程においてシリコン・シリコン酸化膜(SiO₂)に対する高いエッチング選択比を持つため、パターニング用ハードマスクとして多用されます。STI(Shallow Trench Isolation)プロセスでは、Si₃N₄を研磨ストッパーとして使用するCMPプロセスが確立されています。
パッシベーション膜・保護膜
チップの最外層に形成されるパッシベーション膜として、Si₃N₄またはSiON(オキシナイトライド)が使用されます。外部からの水分・イオン・汚染物の侵入を防ぐバリア機能を持ちます。
3D NAND用絶縁膜・犠牲膜
3D NANDフラッシュの多層構造形成において、SiO₂とSi₃N₄を交互に積層した後、Si₃N₄を選択的にエッチング除去して金属(タングステン等)を充填するワードライン形成プロセスが標準的に使用されます。積層数が増えるほどSi₃N₄の成膜量が増加するため、3D NANDの高積層化が材料需要を押し上げています。
スペーサー・サイドウォール
CMOSトランジスタのゲートサイドウォールスペーサーとして、Si₃N₄はSiO₂と組み合わせて使用されます。
Si₃N₄セラミックス基板(パワー半導体用途)
窒化ケイ素焼結体(Si₃N₄セラミックス)は、高い熱伝導率(80〜100 W/m·K)と高い破壊靭性を兼ね備えた優れたパワー半導体モジュール基板材料です。SiCパワーデバイスとの組み合わせで、EV・鉄道・電力インフラ向け高性能パワーモジュールに最適な基板材料です。Si₃N₄基板はAMB(Active Metal Brazing)法により銅箔と直接接合され、SiCパワーチップやIGBTを搭載したパワーモジュールの絶縁基板として使用されます。
市場動向と主要メーカー
3D NAND市場での積層数増加と、SiCパワーモジュール向けSi₃N₄基板の採用拡大が需要を牽引しています。日本の素材メーカーが高品質なSi₃N₄基板の供給で強みを持っています。
- 宇部興産(日本)/UBE Industries:Si₃N₄粉末・パワー半導体用Si₃N₄基板材料で世界トップクラス。
- MARUWA(丸和電材)(日本):Si₃N₄セラミック基板の量産メーカー。
- 日立金属(現・プロテリアル)(日本):AMB-Si₃N₄基板(SiC向け)の供給を強化。
- Kyocera(京セラ)(日本):セラミックパッケージ・基板全般に展開。
- CoorsTek(米国):エンジニアリングセラミックスの大手メーカー。
エンジニア視点の考察
窒化ケイ素は「地味だが縁の下で支える」材料の典型例です。前工程ではハードマスク・スペーサー・パッシベーションという複数の役割を担い、後工程ではパワーモジュール基板材料として電気自動車の電力変換効率を左右します。パワー半導体基板用Si₃N₄においては、日本の材料メーカーが品質面で高い評価を受けており、この分野での日本の優位性は今後も維持できると見られます。しかし、EVの普及に伴うSiCパワーモジュール需要の爆発的増加が、供給能力の拡張スピードを上回るリスクも存在します。

