真空ポンプ〜ドライポンプ・ターボ分子ポンプの種類と選び方
半導体製造プロセスにおいて、真空環境の形成は不可欠な要素である。CVD(化学気相成長)、PVD(物理気相成長)、エッチング、イオン注入など、主要なプロセス装置はいずれも高度な真空環境を必要とする。その真空環境を実現する心臓部が「真空ポンプ」だ。真空ポンプの選定を誤ると、プロセス品質の低下や装置トラブルの頻発につながるため、設計・保全エンジニアにとって真空ポンプの正確な知識は必須である。本記事では、半導体製造装置で広く使用されるドライポンプとターボ分子ポンプを中心に、種類・仕組み・選定ポイントまでを体系的に解説する。
真空ポンプの仕組みと種類〜ドライポンプ・ターボ分子ポンプを中心に
真空ポンプはその動作原理によって大きく「容積移送型(粗引きポンプ)」と「運動量移送型(高真空ポンプ)」に分類される。半導体製造装置では、これらを組み合わせた「ポンプシステム」として使用するのが一般的だ。
ドライポンプ(Dry Pump)
ドライポンプは、オイルを一切使用しない無給油式の容積移送型ポンプである。従来は油回転ポンプ(ロータリーベーンポンプ)が主流だったが、プロセスガスへの油汚染リスク、廃油処理コスト、排気系へのオイルミスト混入などの問題から、半導体製造装置ではドライポンプへの移行がほぼ完了している。
ドライポンプの代表的な動作機構には以下の種類がある。
- スクロール型(Scroll Pump):固定スクロールと旋回スクロールの組み合わせによってガスを圧縮・排気する。構造がシンプルで低振動・低騒音が特長。低流量・低排気速度の用途に適しており、分析装置や研究用途にも多用される。
- スクリュー型(Screw Pump):一対のスクリューローターが逆方向に回転し、ガスを軸方向に移送する。排気速度が大きく、腐食性ガスや粉体を含むガスに対しても比較的強い。エッチングやCVDプロセス向けに広く採用されている。
- クロー型(Claw Pump):クロー形状のローター2個が同期回転してガスを圧縮・排気する。スクリュー型と同様に高流量対応が可能で、多段化によって高圧縮比を実現する。
- ルーツ型(Roots Pump):単体では圧縮比が低いため、前段のドライポンプと組み合わせてブースターとして使用する。大排気速度が必要なロードロック室や粗引き系に用いられる。
ターボ分子ポンプ(Turbo Molecular Pump / TMP)
ターボ分子ポンプは、高速回転する羽根車(ロータ)の運動量をガス分子に与えることで排気方向に移送する運動量移送型ポンプである。ロータの回転数は一般的に20,000〜90,000 rpm にも達し、10⁻⁴ Pa 以下の高真空・超高真空域での使用に適している。
ターボ分子ポンプの特長としては、到達真空度の高さ(10⁻⁸ Pa 台も可能)、清潔な排気(オイルフリー)、応答速度の速さ、メンテナンス性の高さが挙げられる。一方で、大気圧から単独では動作できないため、必ずドライポンプなどのバックポンプ(後段ポンプ)との組み合わせが必要である。
軸受方式によって「メカニカルベアリング型」と「磁気浮上型(マグネティックベアリング型)」に分かれる。半導体製造装置ではパーティクル発生を嫌うため、磁気浮上型が主流となっている。
その他の高真空ポンプ
ターボ分子ポンプ以外にも、特定の用途で使用される高真空ポンプがある。
- クライオポンプ(Cryo Pump):極低温の冷凍機を使ってガスを凝固・吸着させる。到達真空度が非常に高く、パーティクルの発生がない。イオン注入装置などで広く採用されているが、定期的な再生(ウォームアップ)が必要。
- イオンポンプ(Ion Pump):電気的にガス分子をイオン化・スパッタリングして排気する。メカニカル部品がなく超高真空維持に優れるが、排気速度が低い。
- ゲッターポンプ(Getter Pump):化学的に活性な材料にガスを吸着させる。主に超高真空システムの補助的な排気手段として使用される。
半導体製造装置における真空ポンプの応用〜プロセス別の使い分け
半導体製造プロセスごとに求められる真空度・排気速度・耐腐食性は大きく異なる。各プロセス装置に最適な真空ポンプシステムを選定することが、プロセス安定性と装置稼働率の確保につながる。
CVD装置(Chemical Vapor Deposition)
プラズマCVD(PECVD)や熱CVD装置では、プロセスチャンバー内に成膜ガスを導入しながら真空を維持する。排気ガスには腐食性成分(HF、Cl₂、NF₃など)が含まれることが多く、ドライポンプには高い耐腐食性が求められる。また、副生成物による粉体堆積(パウダー問題)も課題であり、ポンプ内を一定温度に保温するヒーター機能付きのドライポンプが採用されるケースが多い。チャンバーの粗引きにはスクリュー型またはクロー型ドライポンプが、プロセス圧力維持にはコンダクタンス制御弁との組み合わせが一般的だ。
エッチング装置(Dry Etching)
ドライエッチング装置(RIE、ICP-RIE など)では、フッ素系・塩素系の腐食性ガスを大量に排気するため、ドライポンプの耐腐食性・耐久性が特に重要視される。スクリュー型ドライポンプが広く採用されており、ガス系統の除害設備(スクラバー)との接続設計も重要な検討項目となる。
スパッタリング装置・PVD装置
スパッタリング装置では、10⁻⁴〜10⁻⁶ Pa 台の高真空が必要であり、ターボ分子ポンプ+ドライポンプの組み合わせが標準的な構成となる。ターボ分子ポンプの排気速度はプロセスチャンバーの容積やコンダクタンスに応じて選定し、到達真空度と排気速度のバランスを最適化する。
イオン注入装置
イオン注入装置はビームライン全体を超高真空に保つ必要があり、クライオポンプやターボ分子ポンプが多段的に配置される。クライオポンプは大排気速度と清潔な排気環境を提供するが、定期再生時の装置停止が必要なため、保全計画への組み込みが重要である。
ロードロック・ウェーハ搬送系
ロードロックチャンバーは大気圧から10⁻³ Pa 程度まで短時間で粗引きする必要があるため、大排気速度のドライポンプ(またはルーツポンプ+ドライポンプ)の組み合わせが採用される。サイクルタイムの短縮と装置スループット向上に直結する部分であり、排気速度の設計が特に重要だ。
なお、真空チャンバーや配管を構成する金属部品の材質選定も真空性能に影響する。半導体製造装置の金属加工部品〜アルミ・SUS・チタンの使い分けと表面処理も合わせて参照されたい。アウトガスの少ない材料選定と表面処理が、到達真空度の確保に重要な役割を果たす。
真空ポンプの主要メーカー〜国内外の代表的サプライヤー
真空ポンプ市場は少数の大手メーカーが高いシェアを持つ構造となっており、半導体製造装置向けには特に信頼性・サポート体制が重視される。
エドワーズ(Edwards Vacuum)
英国アトラスコプコグループのエドワーズは、半導体プロセス向けドライポンプ(iXH シリーズ、nXDS シリーズ等)とターボ分子ポンプ(STPシリーズ)で世界トップクラスのシェアを持つ。腐食性ガス対応や粉体対応のノウハウが豊富で、エッチング・CVD 用途に強みを持つ。
レイボルド(Leybold)
ドイツのアトラスコプコグループ傘下のレイボルドは、ドライポンプ(DRYVAC シリーズ)とターボ分子ポンプ(TURBOVAC シリーズ)を幅広く展開。特にターボ分子ポンプの高性能モデルで定評がある。
プファイファー・バキューム(Pfeiffer Vacuum)
ドイツのプファイファーは、ターボ分子ポンプ(HiPace シリーズ)で高い評価を得ており、研究用から量産装置まで幅広い製品ラインナップを持つ。コンパクトなモデルから大型モデルまで揃える。
アルカテル・アドワンステクノロジー(Adixen / Pfeiffer グループ)
フランスのアディクセン(現プファイファー傘下)は、スクロール型・スクリュー型ドライポンプで実績が高く、半導体・FPD 装置向けに多数の納入実績を持つ。
カネツ(ULVAC)
日本の ULVAC(アルバック)は、国内半導体製造装置メーカーとの連携実績が豊富なドライポンプ・ターボ分子ポンプメーカー。日本語対応のサポート体制と国内保守網が強みである。
アリスト(Agilent / Varian 系)
現在は Agilent Technologies から分社した Variant 製品を含む製品群が流通しており、イオンポンプやターボ分子ポンプで超高真空分野に強みを持つ。
真空ポンプの選定ポイント〜設計・保全エンジニアが押さえるべきチェック項目
真空ポンプの選定は、プロセス要求仕様・装置設計・ランニングコスト・保全性の4軸で検討することが重要だ。以下に主要な選定ポイントを整理する。
① 到達真空度と排気速度
まずプロセス要求の最低到達真空度を明確にし、余裕を持った仕様のポンプを選定する。ターボ分子ポンプの到達真空度は最終的にバックポンプの性能に依存するため、システム全体の設計が重要だ。また排気速度(l/s または m³/h)はチャンバー容積・リーク量・プロセスガス流量をもとにサイジングを行う。排気速度不足はプロセス時間の延長や真空度未達に直結する。
② 排気ガスの種類と腐食性への対応
エッチング・CVD プロセスでは腐食性・反応性の高いプロセスガスがポンプ内部を通過する。材質(SUS316L、アルミ合金、特殊コーティング等)・シール材(フッ素系エラストマー等)の耐腐食性を確認し、必要に応じてメーカーの「腐食性ガス対応仕様」を選択する。また N₂ パージ機能や希釈排気機能の有無も確認が必要だ。
③ パーティクル発生の抑制
ウェーハ汚染に直結するパーティクル問題は非常に重要な課題である。ターボ分子ポンプには磁気浮上型(オイルフリーベアリング)を選択し、チャンバー側へのパーティクルバックストリームを最小化する。ドライポンプについてもオイルフリー構造であることを確認する。
④ 消費電力・ランニングコスト
24時間365日稼働する半導体製造装置において、真空ポンプの電力消費はランニングコストに大きく影響する。インバーター制御による省エネタイプのドライポンプを選択することで、アイドル時の電力を大幅に削減できる。年間消費電力のコスト試算を行い、TCO(総所有コスト)で比較評価することを推奨する。
⑤ メンテナンス性と部品調達性
保全エンジニアにとって、ポンプのオーバーホール周期・消耗部品の交換難易度・スペアパーツの調達リードタイムは重要な選定基準である。国内在庫・国内サービス体制が整っているメーカーを選択することで、緊急時の対応力が大幅に向上する。また、ポンプのモニタリング機能(振動・温度・電流値のリモート監視)を活用した予防保全体制の構築も検討したい。
⑥ チャンバー材料との適合性
真空チャンバーを構成するアルミ合金・ステンレス鋼・チタンなどの材料は、アウトガスの観点でも慎重に選定する必要がある。特にシール部品やガスケットのアウトガス特性は到達真空度に影響するため、チャンバー設計と合わせて検討が必要だ。セラミック加工部品(アルミナ・SiC・窒化アルミ)〜耐熱・耐食・絶縁用途別選び方で紹介しているセラミック部品も、高温・腐食環境下での絶縁部品として真空チャンバー内で活用されるケースがある。
よくある質問(FAQ)〜真空ポンプの選定・運用に関するQ&A
- Q1. ドライポンプとオイル回転ポンプ(ロータリーベーンポンプ)の違いは何ですか?
- A. 最大の違いは動作機構における潤滑油の有無です。オイル回転ポンプはオイルシールを利用してガスを圧縮・排気しますが、プロセスガスへの油汚染リスクや廃油処理コストが問題となります。ドライポンプはオイルを一切使用しないため、クリーンな排気が実現でき、半導体製造装置への採用が標準となっています。到達真空度はオイルポンプの方が若干有利な場合もありますが、現代のドライポンプは性能差がほぼなく、コンタミネーションリスクの低さから半導体用途ではドライポンプが圧倒的に優位です。
- Q2. ターボ分子ポンプが単独で大気圧から動作できない理由は何ですか?
- A. ターボ分子ポンプは分子流領域(概ね 1 Pa 以下)でのみ高い圧縮比を発揮できる動作原理を持っています。大気圧に近い粘性流領域では分子の平均自由行程が非常に短く、ロータ羽根による運動量付与が機能しません。このため、必ず前段にドライポンプ等のバックポンプを配置し、チャンバーをあらかじめ 10 Pa 以下程度まで粗引きしてからターボ分子ポンプを動作させる必要があります。バックポンプとのインターロック設計は装置安全上も重要です。
- Q3. ターボ分子ポンプのメカニカルベアリング型と磁気浮上型(マグネットベアリング型)の使い分けは?
- A. メカニカルベアリング型はグリース潤滑のため定期的な軸受交換が必要ですが、耐衝撃性が高く価格も安価です。一方、磁気浮上型はベアリングが非接触のためパーティクルの発生がなく、メンテナンス間隔が大幅に長い特長があります。半導体製造装置ではウェーハ汚染防止の観点から磁気浮上型が標準選択肢となっています。研究用・分析用途ではコスト優先でメカニカルベアリング型が選ばれるケースもあります。
- Q4. 腐食性ガスを排気するプロセスでのドライポンプ選定の注意点を教えてください。
- A. 腐食性ガス(HF、Cl₂、HCl、NF₃ など)を扱うプロセスでは、ポンプ内部の材質・コーティング・シール材の耐腐食性を最優先に確認します。各メーカーが「腐食性ガス対応グレード」を設定しており、内部にアルマイト処理やニッケルコーティングを施したモデルが推奨されます。また、ポンプ排気側の配管・除害設備との接続部の材質も腐食リスクがあるため、配管材質(SUS316L など)と締結部シールの選定も重要です。N₂ パージラインの設置により、停止時のガス置換も欠かせません。
- Q5. 真空ポンプの予防保全で重要なモニタリング項目は何ですか?
- A. ドライポンプでは「モーター電流値」「本体温度」「振動値」「排気温度」が主要なモニタリング項目です。電流値の上昇は内部粉体堆積や異物混入のサインであり、温度上昇は冷却系異常の指標となります。ターボ分子ポンプでは「回転数」「ベアリング温度」「モーター電流」のほか、磁気浮上型では磁気軸受の変位量も重要指標です。これらのパラメータをリモート監視システムと連携させ、トレンド管理による予知保全を実践することで、予期せぬ装置停止を大幅に削減できます。
まとめ〜真空ポンプ選定で装置性能と稼働率を最大化する
本記事では、半導体製造装置に使用される真空ポンプの種類・仕組み・応用・選定ポイントを体系的に解説した。ドライポンプはオイルフリーかつ高い耐腐食性を持ち、CVD・エッチング・ロードロックなどの粗引き系に幅広く活用される。ターボ分子ポンプはスパッタリング装置やPVD装置などの高真空域に不可欠であり、磁気浮上型が半導体製造現場の標準仕様となっている。
設計エンジニアにとっては到達真空度・排気速度・腐食対応・パーティクル管理が主要な選定軸となり、保全エンジニアにとってはメンテナンス周期・モニタリング体制・スペアパーツ調達性が重要な評価基準となる。真空ポンプはプロセス安定性と装置稼働率の要であるため、初期選定の段階から設計・保全の両サイドが連携して仕様検討を行うことが理想的だ。
また、真空システムの性能を最大化するためには、ポンプ単体の性能だけでなく、チャンバー材料・配管設計・シール部品・バルブ制御との総合設計が欠かせない。半導体製造装置の金属加工部品〜アルミ・SUS・チタンの使い分けと表面処理や関連する技術記事も参考に、装置全体として最適な真空システムを構築していただきたい。
今後も真空ポンプの省エネ化・IoT連携・AI活用による予知保全など技術革新が続いており、最新動向を継続的にキャッチアップすることが競争力維持につながる。
最終更新日:2026年5月

