封止材・アンダーフィルとは
封止材(Encapsulant / EMC: Epoxy Molding Compound)とアンダーフィル(Underfill)は、半導体パッケージにおいてチップを外部環境(湿度・熱・機械的応力)から保護するための重要な材料です。チップレット技術・2.5D/3Dパッケージング・Fan-Out WLP(FOWLP)の普及にともない、封止材・アンダーフィルに求められる性能要件は急速に高度化しています。本記事では種類・用途・市場動向・主要メーカーをエンジニア目線で体系的に解説します。
封止材(EMC)の種類
トランスファーモールドコンパウンド
エポキシ樹脂をベースにシリカフィラーを高充填したグラニュール状の材料です。従来のQFP・BGA等の量産パッケージに広く使用されており、成熟した製造インフラとの親和性が高い点が特長です。フィラー充填率の向上(90%以上)によって熱膨張係数をシリコンに近づける設計が主流となっており、反り抑制と信頼性確保の両立が設計上の重要課題です。
液状封止材(LMC)
先端パッケージングや小型CSP向けに、液状のエポキシ樹脂を使用するタイプです。微細ギャップへの充填性に優れ、FOWLP(Fan-Out Wafer Level Package)やフリップチップ実装との相性が良く、バンプピッチの微細化が進む先端パッケージでの採用が拡大しています。
この分野では、固形封止材(EMC)で世界トップシェアを持つ住友ベークライトが2026年4月より先端パッケージ向け液状封止材の供試を開始し、2027年の認定採用を目指すと発表しています(住友ベークライト公式発表、2026年5月)。同社の液状封止材分野への本格参入は、先端パッケージ材料市場の競争構造に変化をもたらす可能性があるとされます。
ウエハーレベル封止材
ウエハーレベルで一括モールドするFan-Out WLPに対応した材料であり、低反り性・低応力が最も重要な特性として求められます。ウエハー全面を均一にモールドする工程特性上、熱硬化時の収縮挙動の制御が材料設計の核心となります。
パネルレベルパッケージ(PLP)向け封止材:第二の波
HPC・AI向けに大型パッケージの需要が高まる中、パネルレベルパッケージ(PLP)向け封止材が「第二の波」として台頭しつつあります。PTI・Samsung・ASEに加え、Amkor・TSMC・Silicon Boxなども参入を表明しており(Yole Group、2025年4月)、ウエハーレベル封止材とは区別されるPLP専用材料への需要が生まれています。
住友ベークライトは2024年11月、PLP向け圧縮成形用エポキシ樹脂封止材(顆粒材料)の量産販売を開始したと発表しました(住友ベークライト公式発表、2024年11月)。AI半導体など先端半導体の生産性向上・高機能化への貢献を目的としており、PLP対応封止材が実用段階に入りつつあることを示す具体的な事例です。
アンダーフィルの種類
アンダーフィルは実装プロセスや用途により三つに大別されます。キャピラリーアンダーフィル(CUF)はフリップチップ実装後に毛細管現象を利用してバンプ間隙に充填する最も一般的な方式で、充填性と信頼性実績が高い反面、工程タクトへの影響が課題です。モールドアンダーフィル(MUF)はEMCモールドプロセスと同時充填することで工程を簡略化し、スループット向上に寄与します。非流動性アンダーフィル(NUF)はチップ実装と同時硬化によりさらなる工程削減を実現し、チップレット構造など高密度実装への適用が検討されています。
HBM向けアンダーフィル:MR-MUF方式とTC-NCF方式の分岐
HBM3以降の世代では、アンダーフィルの方式選択がメモリメーカー間の競争力を左右する要素の一つとなっています。SK hynixは液状圧縮モールドアンダーフィル材を用いたMR-MUF(Mass Reflow Molded Underfill)方式を採用しており、SamsungやMicronが採用するTC-NCF(Non Conductive Film+熱圧着)方式と対比される構図が鮮明化しているとされます。SK hynixのMR-MUF採用がHBM市場でのリード確立に寄与したとも言われており、アンダーフィル材の方式選択が製品競争力に直結する事例として注目されます。HBM4世代(16-Hi)に向けてSK hynixはMR-MUFを主軸にしながらハイブリッドボンディングも並行開発する2トラック戦略を取っているとされます(photoncap.net、2026年5月)。
ハイブリッドボンディングによるアンダーフィル不要化の動向
Cu-Cu直接接合(ハイブリッドボンディング)は、ハンダバンプとアンダーフィル材を不要とし、接続ピッチを10μm以下へ縮小できる技術として急速に注目を集めています(Semiconductor Engineering、2026年3月)。Yole Groupはハイブリッドボンディング装置市場が2025〜2030年にCAGR 21%で成長すると予測しており、長期的にはCUF・MUFの一部需要を代替しうる技術トレンドとして、エンジニアとして把握しておく必要があります。
市場動向
封止材・アンダーフィル市場はAIサーバー向けSoC・HBM搭載パッケージ・先端パッケージングの需要拡大を背景に成長が加速しています。CoWoS・FOWLPなどの先端パッケージングに使用される高機能封止材は従来の汎用品と比べて大幅に高い価格帯を形成しており、材料メーカーの収益性向上に直接寄与しています。
市場規模については、複数の調査会社レポートによると、封止材・アンダーフィルを合算した市場は2024年で約35〜37億ドル、2025年で約38億ドル規模と報告されています(Reports and Data)。なお、アンダーフィル単体の市場規模は、調査会社による定義・集計範囲の差異から1.8億〜10億ドル超と推計値に大きな幅があるため、数値を参照する際は対象範囲の確認が必要です。先端パッケージ向け高付加価値品が市場成長を牽引する構図が定着しつつあります。
主要メーカー
- 住友ベークライト(日本):世界最大の半導体封止材メーカー。同社の2024年9月の公式発表によると、同社推定で世界シェア約40%(住友ベークライト公式発表、2024年9月)。PLP向け圧縮成形封止材の量産化(2024年11月)や先端パッケージ向け液状封止材の供試開始(2026年4月)など、先端パッケージ全域での事業拡張を進めています。
- 信越化学工業(日本):シリコーン系封止材および液状封止材で高シェアを持ちます。
- レゾナック(旧日立化成、日本):同社の2025年サステナビリティレポートによると、アンダーフィル(CUF/MUF)で世界シェア2位、封止材(EMC)でも世界シェア2位を自認しており(RESONAC REPORT 2025)、両分野でトップクラスのポジションを確立しています。
- Henkel(ドイツ):アンダーフィル分野でグローバル展開しています。
- Nagase ChemteX(日本):液状アンダーフィルに特化し、先端パッケージ向けで存在感を示しています。
エンジニア視点の考察
封止材・アンダーフィルは「見えない材料」ですが、パッケージの信頼性試験(TCT・HAST)の合否を左右する極めて重要な材料です。3D-ICやチップレット構造では複数の異種材料が積層されるため、各層の熱膨張係数を精密に整合させる材料設計が信頼性の鍵を握ります。
一方、HBM向けではMR-MUF方式とTC-NCF方式の技術選択がメモリ競争を左右する事例が示すように、アンダーフィルの材料・工法の選択は製品競争力に直結しつつあります。さらに長期的にはハイブリッドボンディングの普及がCUF・MUFの一部需要を代替する可能性もあり、材料メーカーには技術ポートフォリオの継続的な見直しが求められます。
日本メーカーが圧倒的なシェアを持つ背景には、長年にわたるすり合わせ技術の蓄積と半導体パッケージメーカーとの緊密な協業関係があります。固形EMCでトップシェアを持つ住友ベークライトが液状封止材分野に本格参入するなど、先端パッケージ材料の競争構造は変化の局面を迎えています。先端パッケージング向け高付加価値品においてどれだけ技術優位性を維持・拡張できるかが、今後の競争力を左右する最大の焦点です。

