温度センサ(熱電対・RTD・放射温度計)〜プロセス別の選び方
半導体製造プロセスにおいて、温度管理は製品の歩留まりと品質を左右する最重要パラメータのひとつです。成膜、エッチング、熱処理、CMP(化学機械研磨)など、各プロセスステップでは精密な温度制御が求められ、その要となるのが温度センサです。熱電対(サーモカップル)、RTD(抵抗温度検出器)、放射温度計(パイロメータ)の3種類が代表的ですが、それぞれに特性・適用範囲・精度が異なります。本記事では、半導体製造装置の設計・保全エンジニアに向けて、各温度センサの仕組みと特徴を整理し、プロセス別の最適な選び方を詳しく解説します。
温度センサの仕組みと種類〜熱電対・RTD・放射温度計の基礎知識
熱電対(サーモカップル)
熱電対は、ゼーベック効果(Seebeck Effect)を利用した温度センサです。異種金属を接合した2本の導線の両端に温度差が生じると、起電力(熱起電力)が発生します。この電圧を測定することで温度を算出します。応答速度が速く、構造がシンプルで堅牢なため、高温環境でも安定して使用できることが最大の特長です。
主な種類としては、Kタイプ(クロメル-アルメル、−200〜+1350℃)、Jタイプ(鉄-コンスタンタン、−40〜+750℃)、Nタイプ(ニクロシル-ニシル、高温での安定性に優れる)、Rタイプ・Sタイプ(白金-ロジウム系、高精度高温用)などがあります。半導体装置では特にKタイプとRタイプ・Sタイプが広く採用されています。
RTD(抵抗温度検出器)
RTD(Resistance Temperature Detector)は、白金などの金属の電気抵抗が温度によって変化する特性を利用した温度センサです。最も一般的なのがPt100(白金抵抗体、0℃で100Ω)やPt1000です。熱電対と比較して精度・再現性が非常に高く、長期安定性にも優れています。測定範囲は−200〜+850℃程度で、半導体プロセスの中温域での精密計測に適しています。
ただし、応答速度は熱電対より若干遅く、機械的な振動や衝撃には注意が必要です。配線抵抗の影響を受けるため、高精度測定では4線式接続が推奨されます。
放射温度計(パイロメータ・赤外線温度計)
放射温度計は、物体から放射される赤外線エネルギーを非接触で検出し、温度に換算するセンサです。測定対象に接触しないため、高速回転部品、腐食性環境、真空チャンバー内のウェハ温度計測など、接触型センサが使えない場面で威力を発揮します。ただし、測定精度は物体の放射率(エミシビティ)に大きく依存するため、材料ごとの放射率補正が不可欠です。シリコンウェハのような放射率が低く変動する材料では、特に注意が必要です。
半導体製造装置への応用〜プロセス別の温度センサ活用事例
CVD・ALD(化学気相堆積・原子層堆積)装置
CVD(Chemical Vapor Deposition)やALD(Atomic Layer Deposition)プロセスでは、チャンバー内のヒータ温度を200〜800℃の範囲で精密制御する必要があります。このプロセスでは、熱電対(Kタイプ、Nタイプ)がチャンバー壁やヒータ部に直接埋め込まれ、プロセス温度のフィードバック制御に用いられています。また、ウェハ表面の実温度を確認するために、放射温度計を補助的に併用するケースも増えています。
装置の構造材料には高い耐熱性と耐食性が求められるため、センサ保護管にはアルミナや石英が用いられます。関連して、セラミック加工部品(アルミナ・SiC・窒化アルミ)〜耐熱・耐食・絶縁用途別選び方も参考にしてください。これらのセラミック材料は、温度センサの保護管・絶縁管としても重要な役割を担っています。
熱処理炉(アニール・酸化・拡散装置)
縦型・横型の熱処理炉では、800〜1200℃の高温域での長時間安定制御が求められます。この領域ではRタイプ・SタイプといったPt-Rh系の熱電対が採用され、ゾーンごとに複数本配置してマルチゾーン制御を実現しています。炉内の均熱性は製品の結晶性に直結するため、センサの設置位置と本数が装置設計の重要なポイントになります。
ドライエッチング(ICP・RIE)装置
ドライエッチング装置では、プラズマによる腐食性環境(ClF系、SF6系ガス)においても安定して動作するセンサが必要です。チャンバー壁温度の管理にはKタイプ熱電対が広く用いられ、静電チャック(ESC)のウェハ温度管理にはRTD(Pt100)が使用されます。また、ウェハ裏面温度の非接触計測にはパイロメータが活用されています。
RTP(急速熱処理)装置
RTP(Rapid Thermal Processing)では、数秒以内に数百℃の急速昇降温が行われます。接触型センサでは追従が間に合わないため、ここでは放射温度計(パイロメータ)が主役となります。シリコンウェハの放射率補正技術と、高速応答性の両立が装置設計の核心です。
CMP(化学機械研磨)装置
CMPでは研磨中のスラリー温度とパッド温度の管理が重要で、比較的低温域(常温〜100℃)での計測精度が求められます。この領域ではRTD(Pt100)が優れた安定性と精度を発揮します。
主要メーカー〜温度センサの信頼性と調達先
半導体製造装置向けの温度センサを供給する主要メーカーを紹介します。
オメガエンジニアリング(OMEGA Engineering)
熱電対、RTD、赤外線温度計の幅広いラインナップを持つ世界的メーカー。カスタム仕様対応力が高く、保護管材質・コネクタ形状・ケーブル長など細かな仕様変更に対応できます。
横河電機(Yokogawa)
高精度RTDトランスミッタと温度計測ソリューションで国内外の半導体業界に強い実績を持ちます。HART通信対応製品も充実しています。
JUMO(ユモ)
ドイツ発の温度センサ専門メーカー。半導体・化学プロセス向けの耐食仕様センサが充実しており、SIL対応製品の調達先としても注目されています。
レイセオン・テクノロジーズ傘下 Raytek / Fluke Process Instruments
非接触放射温度計(パイロメータ)の分野でグローバルシェアを持ちます。半導体製造ライン向けの高精度・高速応答モデルを提供しています。
芝浦電子(Shibaura Electronics)
サーミスタ・RTDを中心に国内半導体メーカーへの納入実績が豊富。小型・高精度なセンサ素子の製造技術に定評があります。
選定ポイント〜温度センサ選びで失敗しないための重要チェックリスト
①測定温度範囲と精度要件の確認
まず対象プロセスの温度範囲を明確にします。−200〜+600℃の中低温域で高精度が必要ならRTD(Pt100)が第一選択です。600℃を超える高温域では熱電対(K・N・R・Sタイプ)を選定します。さらに1000℃超の精密計測ではRタイプ・SタイプのPt-Rh系熱電対が適しています。
②プロセス雰囲気との適合性
腐食性ガス(ハロゲン系、硫黄系など)に曝される環境では、センサの保護管・シース材質の耐食性が重要です。インコネル(Inconel)やハステロイ(Hastelloy)製のシースが有効で、真空環境では熱電対の密封構造にも注意が必要です。装置の金属材料選定については、半導体製造装置の金属加工部品〜アルミ・SUS・チタンの使い分けと表面処理も合わせて参照すると、センサ取り付け部の素材選定にも役立ちます。
③応答速度と設置形態
急速昇降温プロセス(RTP、パルス加熱など)では応答速度が重要です。細径シース型熱電対(1〜3mmΦ)は応答が速く、急峻な温度変化の追従に有利です。一方、ウェハや回転体など接触設置が困難な場合は放射温度計を選択します。
④接触型か非接触型かの判断基準
接触型(熱電対・RTD)はセンサを測定対象に直接接触させるため、設置環境の制約がある場合は放射温度計を検討します。ただし放射温度計は放射率の正確な設定が精度に直結するため、対象物の放射率が安定していること、または補正機構があることが前提条件です。
⑤メンテナンス性と長期信頼性
消耗品として交換が想定されるセンサは、コネクタ形状・取り付け寸法の標準化を行い、予備品管理を徹底します。特に高温プロセスで使用される熱電対は経年劣化(ドリフト)が生じるため、定期的なキャリブレーション計画を立案することが保全の基本です。RTDは熱電対に比べ長期安定性が高いですが、振動・衝撃環境下では抵抗素子のダメージに注意が必要です。
⑥コストと調達性のバランス
Pt-Rh系熱電対(R・Sタイプ)は白金族金属を使用するため単価が高くなります。汎用性と経済性のバランスを考慮し、Kタイプや N タイプで代替可能なプロセスでは積極的に活用します。また、国内外のサプライヤーから安定供給を受けられるかどうかも、装置の保全運用上、重要な選定基準です。
よくある質問(FAQ)〜温度センサの選び方と活用
- Q1. 熱電対とRTDはどちらが精度が高いですか?
- 一般的にRTD(Pt100)の方が精度・再現性・長期安定性に優れています。クラスA仕様のPt100では±0.15℃(0℃時)の精度が得られます。一方、熱電対はクラス1でも±1〜1.5℃程度の誤差があります。ただし、600℃以上の高温域ではRTDの使用限界を超えるため、熱電対一択となります。用途に応じた使い分けが重要です。
- Q2. 放射温度計(パイロメータ)の放射率設定はどうすれば良いですか?
- 放射率は材料・表面状態・温度・波長によって変化します。シリコンウェハは波長や温度依存性が大きく、特に注意が必要です。実測による校正が最も確実で、熱電対との同時計測で放射率を補正する方法が実用的です。装置メーカーが放射率テーブルを提供している場合はそれを活用し、定期的な確認を行ってください。
- Q3. 半導体装置の真空チャンバー内で使える温度センサは何ですか?
- 真空環境では、アウトガスの少ないミネラル絶縁(MI)シース型熱電対が適しています。シース材質はSUS316LやインコネルをUHV用途では電解研磨処理したものを選びます。非接触での計測が必要なら、チャンバー窓(ビューポート)越しに使用できる放射温度計も有効です。RTDも真空対応品が市販されています。
- Q4. 熱電対の経年劣化(ドリフト)を防ぐにはどうすれば良いですか?
- 熱電対のドリフトを完全に防ぐことはできませんが、適切な使用温度範囲内での運用、センサの定期交換、校正の実施によって影響を最小化できます。高温プロセス(800℃以上)では3〜6か月ごとの校正または交換が推奨されます。校正記録を管理し、トレンド監視で異常を早期に検知する保全体制が有効です。
- Q5. CVD装置でチャンバー内温度とウェハ温度に差が出るのはなぜですか?
- チャンバー壁やヒータに設置した熱電対はヒータ近傍の温度を測定しており、ウェハ表面の実温度とは熱伝達経路の影響で差が生じます。この差はプロセスガスの種類・圧力・ウェハの熱物性によって変わります。ウェハ実温度の把握には放射温度計やウェハ型温度センサ(ウェハレット)の活用が有効で、装置立ち上げ時のプロセス温度マッピングが重要です。
まとめ〜温度センサ選定で半導体プロセスの安定稼働を実現する
温度センサは半導体製造装置における「見えない要」とも言える重要コンポーネントです。熱電対・RTD・放射温度計それぞれに明確な強みと弱みがあり、プロセス温度域・雰囲気・精度要件・設置条件に応じて最適なセンサを選定することが、装置性能と製品品質を左右します。
設計段階では、センサの種類だけでなく、保護管・シース材質・接続方式・校正体制までを含めたシステム全体での温度計測設計が求められます。また保全エンジニアとしては、センサの経年劣化・ドリフト特性を理解したうえで、適切な交換サイクルと校正計画を策定することが、装置の安定稼働維持に直結します。
本記事で紹介した選定ポイントとFAQを活用し、各プロセスに最適な温度センサの選択・運用に役立てていただければ幸いです。半導体製造装置の設計・保全における温度管理の精度向上が、最終製品の歩留まり改善と競争力強化につながることを確信しています。
最終更新日:2026年5月
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