排ガス処理装置(スクラバー)は、半導体製造プロセスで発生する有害ガス・温室効果ガス・腐食性ガスを無害化し、工場周辺環境と作業者の安全を守る重要な設備です。エッチング・CVD・ALD・拡散など多くの工程で多種多様なプロセスガスが使用される半導体工場において、排ガス処理装置はプロセス装置と一体で運用される「後処理インフラ」として位置づけられています。本記事では、装置の仕組み・種類・用途・主要メーカー・市場動向を技術的な視点から解説します。
排ガス処理装置(スクラバー)とは
半導体製造プロセスにおける役割
半導体製造では、CVD(化学気相成長)・ALD(原子層堆積)・ドライエッチング・拡散・洗浄など多岐にわたる工程で、シラン(SiH₄)・フッ化水素(HF)・塩素(Cl₂)・アンモニア(NH₃)・CF₄・SF₆・NF₃などのプロセスガスが使用されます。これらは可燃性・毒性・腐食性・温室効果を持つものが多く、そのまま大気放出することは法規制上も安全上も許容されません。
排ガス処理装置は、プロセス装置の排気ラインに接続され、未反応ガス・反応副生成物・パーティクルを含む排ガスを受け取り、無害化・浄化して大気に放出します。プロセス装置本体と排ガス処理装置はポイントオブユース(POU)で1対1または複数対1で接続されるケースが多く、プロセスの稼働スケジュールに追従した連続処理が求められます。
処理対象となる主なガスの分類
半導体製造プロセスから排出されるガスは、大きく以下のように分類されます。
- 毒性・腐食性ガス:HF、Cl₂、BCl₃、HCl、NH₃など。エッチングや成膜工程から排出されます。
- 可燃性・自己着火性ガス:SiH₄、PH₃、B₂H₆など。CVDやドーピング工程で使用されます。
- 温室効果ガス(PFCガス):CF₄、C₂F₆、SF₆、NF₃など。地球温暖化係数(GWP)が極めて高く、チャンバークリーニングなどに使用されます。
- VOC・臭気ガス:有機溶剤や洗浄剤由来の揮発性有機化合物。
これらは単独または混合した状態で排出されるため、複数の処理方式を組み合わせた装置構成が一般的です。なお、プロセスガスそのものの特性や材料としての詳細については、各材料カテゴリの記事をご参照ください。
排ガス処理装置の種類と仕組み
湿式排ガス処理装置(ウェットスクラバー)
水や薬液を循環させ、排ガスと気液接触させることで有害成分を吸収・除去する方式です。酸性ガス(HF、HClなど)にはアルカリ性薬液、アルカリ性ガス(NH₃など)には酸性薬液を用いて中和処理します。
処理効率が高く多様なガス種に対応できる反面、使用済み洗浄液が廃水として発生するため、排水処理設備との併用が必要です。また、定期的な洗浄液管理・配管内スケール除去などのメンテナンスが求められます。
乾式排ガス処理装置(ドライスクラバー)
活性炭・ゼオライト・専用吸着剤などの固体吸着材にガスを通過させ、有害成分を吸着・除去する方式です。VOCや一部の毒性ガスの処理に用いられます。
排水が発生しない点がメリットですが、吸着剤が飽和すると処理能力が低下するため、定期的な吸着剤の交換・再生が必要です。また、自己着火性ガスや高濃度の可燃性ガスへの対応には制約があります。
燃焼式排ガス処理装置(バーンスクラバー)
高温燃焼によって排ガスを熱分解・酸化分解する方式です。可燃性ガスや有機系ガスの処理に適しており、特にGWPの高いPFCガス(CF₄、SF₆、NF₃など)の分解に有効です。
燃焼後に生成する酸性ガス(HFなど)は後段の湿式処理で除去するため、燃焼部と湿式部を組み合わせた複合構成が一般的です。PFCガスの完全分解には1,000℃以上の高温が必要とされ、バーナー設計・燃焼室の耐熱材料・温度制御が装置性能を左右します。
一方で、燃焼にともなうCO₂排出が課題となっており、環境負荷低減の観点から次述のプラズマ式への移行も進んでいます。
プラズマ式排ガス処理装置
プラズマ放電によって生成した高エネルギー粒子・ラジカルで排ガスを分解する方式です。燃料ガスを使用しないため、燃焼式と比較してCO₂排出量を大幅に削減できる点が注目されています。
PFCガスの分解効率・消費電力・装置コストの観点でまだ課題も残りますが、半導体業界のカーボンニュートラル対応の加速を背景に、採用が拡大しつつあります。
触媒式排ガス処理装置
触媒の作用を利用して低温で排ガスを酸化・分解する方式です。燃焼式に比べてエネルギー消費を抑えられますが、触媒の被毒(ポイゾニング)による性能劣化への対策と定期的な触媒交換がメンテナンスの要点となります。
排ガス処理装置の構成要素
前処理部(プレトリートメント)
プロセス装置からの排ガスには固体パーティクルや液滴が含まれる場合があります。フィルタやサイクロンセパレータによる前処理を行い、後段の処理部への影響を防ぎます。
メイン処理部
上述の湿式・乾式・燃焼式・プラズマ式・触媒式などの処理機構が配置される中核部分です。処理対象ガスの種類・濃度・流量に応じて単一方式または複合方式が選択されます。
排水処理部
湿式処理や燃焼後の酸性ガス洗浄で生じた廃液は、中和・沈殿などの処理を経て排水基準を満たした上で排出されます。廃液の管理は環境規制への適合とランニングコストの両面で重要です。
制御・モニタリング部
処理効率・温度・圧力・ガス濃度などをリアルタイムでモニタリングし、異常時には自動停止・アラート発報を行います。プロセス装置との連動制御(インターロック)も重要な機能です。半導体工場では装置稼働率が生産性に直結するため、予知保全への対応も求められます。
半導体製造プロセスとの対応関係
排ガス処理装置は、半導体製造の各工程に対応して選定されます。代表的な対応を以下に示します。
- CVD・ALD工程:SiH₄などの可燃性ガスやNH₃などの毒性ガスが発生。燃焼式+湿式の複合構成が多く採用されます。
- ドライエッチング工程:CF₄・SF₆などのPFCガスやCl₂・HBrなどのハロゲン系ガスが排出。燃焼式またはプラズマ式でPFCを分解し、後段の湿式でハロゲン酸を除去します。
- チャンバークリーニング工程:NF₃などの大量のPFCガスが使用されます。高温燃焼またはプラズマによる分解が必要です。
- 拡散・イオン注入工程:AsH₃・PH₃・B₂H₆などの高毒性ガスが発生。湿式または乾式の吸着処理が用いられます。
- 洗浄工程:有機溶剤由来のVOCや臭気ガスが発生。活性炭吸着などの乾式処理が適用されます。
排ガス処理装置の市場規模と動向
2023年の世界市場規模
2023年の排ガス処理装置(スクラバー)の世界市場規模は、前年比2.9%増の1,492億6,100万円とされています(出典:semi-net.com)。ただし、米ドル建てでは前年比6.5%減となっており、円安による押し上げ効果が大きく、実質的な市場規模はやや縮小傾向にあったと見られます。
地域別市場シェア:東アジアが8割超
同データによると、地域別では中国が28.9%(431億700万円)で最大シェアを占め、台湾(19.0%、283億3,600万円)、韓国(18.0%、269億1,700万円)、日本(16.2%、241億600万円)が続きます。東アジア4地域合計で全体の80%以上を占めており、半導体製造拠点の集中を反映しています。
市場成長の見通し
市場調査会社のレポートによると、2028年には世界市場が16億9,864万ドル規模に拡大し、2022年から2028年にかけてCAGR約10.81%で成長すると予測されています(出典:dri.co.jp)。半導体需要の継続的な拡大と、各国・地域での環境規制強化が主な成長ドライバーとして挙げられています。
排ガス処理装置の主要メーカーと製品特徴
グローバル大手3社が市場の約70%を占有
世界市場では、Atlas Copco傘下のEdwards(Edwardsブランドで展開)、DAS Environmental Expert、カンケンテクノの3社が合計で約70%のシェアを持つとされています(出典:semi-net.com)。
- Edwards(Atlas Copco傘下):燃焼式スクラバーで高い実績を持ち、大手半導体メーカーへの採用事例が多い。PFCガス処理性能と装置の信頼性が強みとされています。
- DAS Environmental Expert:湿式処理技術に強みを持つドイツのメーカー。多様なガス種への対応と排水処理システムとの統合が特徴とされています。
- カンケンテクノ:日本の大手スクラバーメーカー。燃焼式・湿式・乾式を含む幅広いラインナップを持ち、国内外の半導体・液晶製造ラインに導入実績があります。
日本の主要メーカー
日本市場では以下のメーカーが存在感を示しています。
- 荏原製作所:独自のバーナー技術を活かした燃焼式装置を展開。半導体製造向けのガスアベートメント装置として、PFCガスや可燃性ガスの高効率処理に対応した製品を提供しています(出典:荏原製作所 公式サイト)。
- 日本パイオニクス:燃焼式・湿式・乾式など複数の処理方式をラインナップし、ガス種や工程に応じた装置選定が可能です。
- ミウラ化学装置:湿式スクラバーを中心に、半導体・化学プラント向けの排ガス処理装置を手がけています。
中国地場メーカーの台頭
中国では、Beijing Jingyi Automation EquipmentやShanghai Shengjian Environment Technologyなどの地場メーカーが国産化の流れを背景に台頭しています。技術開発の加速と価格競争力を武器に、国内シェアを拡大しつつあるとされています。
装置選定の主要な判断基準
排ガス処理装置を選定する際には、以下の観点を総合的に評価することが求められます。
- 処理対象ガスの種類・濃度・流量:対応ガス種の幅と処理効率(除去率)は装置方式の選択に直結します。
- スループット・処理容量:接続するプロセス装置の排ガス発生量に対して十分な処理能力を持つ必要があります。
- 稼働率・信頼性:半導体工場ではプロセス装置の連続稼働が前提となるため、スクラバーのダウンタイムは生産損失に直結します。MTBF(平均故障間隔)とMTTR(平均修復時間)が重要指標となります。
- メンテナンス性:吸着剤・触媒・洗浄液の交換頻度、クリーニング作業の容易さ、部品供給体制などが運用コストを左右します。
- フットプリント・設置環境:クリーンルームや排気スペースの制約に応じたサイズと設置形態が求められます。
- 環境規制への対応:PFCガスの分解率・排水水質・騒音などについて、設置国・地域の規制値を満たすことが必要です。
- 消費エネルギー・CO₂排出:燃焼式からプラズマ式へのシフトに見られるように、カーボンフットプリントも選定要素として重みが増しています。
技術トレンドと今後の展望
PFCガス対応の強化とプラズマ式の普及
半導体製造における微細化の進展とチャンバー数の増加に伴い、PFCガスの排出量は増加傾向にあります。GWPの高いPFCガスの規制は世界的に強化されており、より高い分解率と低CO₂排出を両立できるプラズマ式スクラバーへの関心が高まっています。
予知保全・スマートモニタリングへの対応
装置稼働データをリアルタイムで収集・分析し、消耗品の交換時期や異常の予兆を検知する予知保全機能の搭載が進んでいます。半導体工場全体のデジタル化(スマートファブ化)の流れのなかで、排ガス処理装置もFMSやMESとの連携が求められるようになっています。
大口径ウェーハ対応に伴う処理能力の拡張
300mmウェーハの主流化に続き、450mm対応の研究が進むなかで、プロセス装置1台あたりの排ガス発生量も増加しています。より大流量・高濃度のガスに対応できるスクラバーの開発・提供が求められています。
参考サイト:
[1] http://www.nitto-kakoki.co.jp/kankyo03.html
[2] https://www.ebara.co.jp/precision/index/gas-abatement.html
[3] https://www.dri.co.jp/auto/report/qyr/220901-global-semiconductor-abatement-systems.html
[4] https://www.businessresearchinsights.com/jp/market-reports/exhaust-gas-purifier-market-101154
[5] https://www.gasnical.com
[6] https://www.ipros.jp/cg2/排ガス処理装置/
[7] https://semi-net.com/feature/posts/scrubber2023
[8] https://www.eiwashoko.co.jp/blog/column/165773
[9] https://www.gasnical.com/company_list/
