半導体製造プロセスの中でも、最も工程数が多いのが洗浄工程です。半導体、電子デバイスの製造において、洗浄プロセスは、デバイスの性能と信頼性に直結する重要な工程です。特に、ウエハ表面のウォーターマークやパーティクル(微小なゴミや不純物)の除去は、デバイスの品質向上に欠かせません。ウエハや基板の表面に付着したパーティクル、金属、有機物の除去の他、結晶ダメージや変質層なども、プロセスに悪影響を及ぼす汚染と考えて、洗浄工程でこれらの汚染を除去します。
対象基板
電子デバイス分野の洗浄装置は、シリコンウエハやSiC化合物ウエハなど円形の基板の他、プリント基板(樹脂)、液晶パネル(ガラス)やシリコン太陽電池セル、セラミック基板の製造で用いられる角型基板といった様々な形状、仕様の基板に対応した製造装置が市販されています。
洗浄装置の種類とその特徴
半導体洗浄装置は、大きく分けてバッチ式と枚葉式に分類されます。
- バッチ式洗浄装置: 複数のウエハを一度に洗浄する方式で、大量生産に向いています。一度に多くのウエハを処理できるため、コスト効率が高いのが特徴です。
- 枚葉式洗浄装置: 1枚のウエハを個別に洗浄する方式で、プロセス制御がしやすく、ウエハごとに最適な処理が可能です。高精度な製造が求められる最先端デバイスに適しています。
主な洗浄プロセス
洗浄方法には、ウェット洗浄法、機械的洗浄法、ドライ洗浄法の3種類があります。
ウェット洗浄では、エッチング、酸化還元反応、溶解、界面活性剤、超純水を用います。シリコンのダメージ層除去、ポリマー、残さなど反応生成物除去、有機物やシリコン、シリコン酸化物、金属を除去します。処理槽で薬液撹拌、キャリア揺動、振動、加熱を行います。また、超音波や半導体素子にダメージを与えないメガソニック振動を補助手段として用います。ウェット洗浄工程後は乾燥工程があります。スピンドライ、IPAなどの揮発性有機溶剤による置換、熱風、赤外線などがあります。
機械的洗浄としては、主にパーティクル除去を目的として氷やドライアイス、Arエアロゾルの高圧噴射法があります。
ドライ洗浄法には、主にシリコン表面の自然酸化膜除去を目的としたプラズマ照射、UV/オゾン、無水HFガス、水素アニール、アルゴンスパッタなどがあります。
RCA洗浄
RCA洗浄は半導体製造プロセスにおいて非常に重要な洗浄方法です。この方法は1960年代にRCA(Radio Corporation of America)社によって開発されました。RCA洗浄の主な目的は、ウェハ表面から有機物、金属不純物、および自然酸化膜を除去することです。
RCA洗浄の特徴と利点:
- 高い洗浄効果:有機物、金属不純物、粒子などを効果的に除去できる
- 表面ダメージが少ない:化学的洗浄のため、物理的なダメージが少ない
- 再現性が高い:プロセスが確立されており、安定した洗浄結果が得られる
- 多様な半導体材料に適用可能:主にシリコンウェハ向けだが他の基板材料にも応用できる
RCA洗浄は通常、以下の3つの主要なステップから構成されます:
SC-1 (Standard Clean-1):
- 目的:有機物の除去と粒子の除去
- 組成:NH4OH (アンモニア水) + H2O2 (過酸化水素) + H2O (純水)
- 温度:通常60-80℃
- 時間:10-15分
HF (フッ酸) 処理:
- 目的:自然酸化膜の除去
- 組成:希釈HF溶液(通常1-2%)
- 温度:室温
- 時間:短時間(30秒-2分程度)
SC-2 (Standard Clean-2):
- 目的:金属不純物の除去
- 組成:HCl (塩酸) + H2O2 (過酸化水素) + H2O (純水)
- 温度:通常60-80℃
- 時間:10-15分
各ステップの間には、純水によるリンス工程が入ります。
半導体洗浄装置の乾燥工程について
ウエハ用半導体洗浄装置の乾燥工程は、洗浄後のウエハから水分を完全に除去し、表面の清浄度を維持する重要なプロセスです。主な乾燥方法とその特徴について説明します。
スピン乾燥
- 原理:高速回転による遠心力で水分を飛ばす
- 特徴:
- 簡単で広く使用されている
- 低コスト
- 大口径ウエハでは均一な乾燥が難しい
- 課題:パターン倒れやウォーターマークの発生
IPA(イソプロピルアルコール)蒸気乾燥
- 原理:IPAの蒸気をウエハに接触させ、水と置換して乾燥
- 特徴:
- 表面張力が小さいため、微細構造に適している
- ウォーターマークの発生が少ない
- 課題:IPA使用による環境・安全面の配慮が必要
マランゴニ乾燥
- 原理:表面張力の差を利用して水を引き離す
- 特徴:
- 非常に清浄な表面が得られる
- パターン倒れが少ない
- 課題:プロセス制御が複雑
窒素ブロー乾燥
- 原理:高純度窒素ガスを吹き付けて水分を除去
- 特徴:
- シンプルで高速
- 他の方法と組み合わせて使用されることが多い
- 課題:パーティクルの再付着のリスク
超臨界CO2乾燥
- 原理:超臨界状態のCO2を用いて水分を除去
- 特徴:
- 表面張力がゼロのため、非常に微細な構造にも適用可能
- 環境にやさしい
- 課題:高コスト、装置が複雑
赤外線乾燥
- 原理:赤外線照射により水分を蒸発させる
- 特徴:
- 熱による均一な乾燥が可能
- 非接触のため、ウエハへのダメージが少ない
- 課題:熱に敏感な材料には不適
各方法の選択は、ウエハサイズ、デバイス構造の微細度、要求される清浄度、生産性、コストなどを考慮して決定されます。多くの場合、これらの方法を組み合わせて使用することで、より効果的な乾燥を実現しています。
これらの乾燥方法は、それぞれ長所と短所があり、半導体製造プロセスの要求に応じて選択されます。最近の傾向としては、より微細な構造に対応するため、マランゴニ乾燥や超臨界CO2乾燥などの高度な技術の採用が増えています。
また、環境への配慮から、IPA使用量の削減や、より環境にやさしい方法の開発も進んでいます。
半導体洗浄装置の主な機器構成
半導体洗浄装置の内部構成は、洗浄方式や目的によって異なりますが、一般的な構成要素と仕様について説明します。
- 洗浄槽
- 材質: テフロンコーティングされたステンレス鋼、テフロン、PP、PVC
- 容量: 20〜200リットル程度(装置サイズによる)
- 薬液供給システム
- ポンプ: 耐薬品性の遠心ポンプやダイアフラムポンプ
- 流量: 10〜100L/分程度
- 配管: テフロンやPFA製
- 超音波発生器
- 周波数: 28kHz〜1MHz(用途により選択)
- 出力: 500W〜5kW程度
- 温調システム
- ヒーター: 石英または テフロンコーティングされたステンレス製
- 温度範囲: 常温〜80℃程度
- 温度精度: ±1℃以内
- ろ過システム
- フィルター: カートリッジ式(0.1〜0.5μm)
- ろ過流量: 10〜50L/分程度
- 乾燥システム
- 方式: 高温N2ガス乾燥または遠心乾燥
- 温度: 80〜120℃程度
- 乾燥時間: 3〜10分程度
- 搬送システム
- 方式: ロボットアームまたはコンベア式
- 搬送速度: 0.1〜1m/秒程度
- 制御システム
- PLC(プログラマブルロジックコントローラー)使用
- タッチパネル式操作インターフェース
- 排気システム
- 排気量: 10〜50m³/分程度
- フィルター: HEPAフィルター使用
- 純水供給システム
- 純水製造能力: 10〜100L/時程度
- 水質: 比抵抗18MΩ・cm以上
これらの構成要素は、洗浄プロセスの要求に応じて適切に組み合わせられ、全体のシステムとして機能します。また、パーティクル対策として、装置内部にはクラス100〜1000相当のクリーン環境が維持されるよう設計されています。
洗浄装置の具体的な仕様は、処理するウェハーのサイズ、処理量、要求される洗浄レベルなどによって大きく異なるため、実際の装置選定時にはこれらの要素を考慮して最適な構成を決定する必要があります。
クリーン度の向上に向けた最新技術
半導体製造ラインでは、クリーン度が極めて重要です。これを実現するための装置には、以下のような技術が採用されています。
- ダウンフローとFFU(ファンフィルターユニット): クリーンルーム内の洗浄装置には、ダウンフローと呼ばれる上から下への気流を確保する技術が導入されており、これによりウエハ表面のパーティクル除去が徹底されています。FFUは、清浄な空気を供給し、ウエハが汚染されるリスクを最小限に抑えます。
- ロボット搬送: ウエハの搬送には、クリーン度を維持するために、ロボット搬送が主流となっています。これにより、手作業による汚染のリスクを排除し、プロセス全体の精度と効率を向上させています。
環境と安全に配慮した設計
最新の半導体洗浄装置では、環境への配慮や安全性の確保も重要な課題です。
- 有機溶剤の使用: 洗浄プロセスでは、特定の汚染物質を除去するために有機溶剤が使用されます。これらの溶剤の管理は厳密であり、装置には溶剤の回収と再利用を可能にするシステムが組み込まれています。
- 消火設備: 有機溶剤を使用する洗浄装置には、火災リスクを低減するための高度な消火設備が設置されています。特に、クリーンルーム内での安全性が確保されるよう、最新の技術が採用されています。
日本の洗浄装置メーカー
東京エレクトロン㈱ | 枚葉式洗浄装置 |
㈱SCREENセミコンダクタソリューションズ | バッチ式洗浄装置、枚葉式洗浄装置 |
㈱MTK | 枚葉式洗浄装置 |
オリエント技研㈱ | 各種洗浄装置 |
サムコ㈱ | ドライ洗浄装置 |
ジャパンクリエイト㈱ | バッチ式洗浄装置 |
JAPAN BLUE ㈱ | 各種洗浄装置 |
㈱ジェイイーティー | バッチ式洗浄装置、枚葉式洗浄装置 |
タツモ㈱ | バッチ式洗浄装置、枚葉式洗浄装置 |
全協化成工業㈱ | バッチ式洗浄装置、枚葉式洗浄装置 |
三益半導体工業㈱ | バッチ式洗浄装置 |
㈱ギガテック | バッチ式洗浄装置、枚葉式洗浄装置 |
㈱ダン科学 | バッチ式洗浄装置 |
ダイキンファインテック㈱ | バッチ式洗浄装置、枚葉式洗浄装置 |
㈱ワイエムテクノロジー | 各種洗浄装置 |
PHT株式会社 | バッチ式洗浄装置 |
㈱プレテック | バッチ式洗浄装置、枚葉式洗浄装置 |
㈱高田工業所 | バッチ式洗浄装置、枚葉式洗浄装置 |
㈱カナメックス | 各種洗浄装置 |
㈱電子技研 | 枚葉式洗浄装置 |
芝浦メカトロニクス㈱ | 枚葉式洗浄装置 |
セファテクノロジー㈱ | バッチ式洗浄装置 |
新オオツカ㈱ | 各種洗浄装置 |
㈱北村製作所 | 各種洗浄装置 |
㈱ケミカルアートテクノロジー | バッチ式洗浄装置 |
㈱ソフ.エンジニアリング | バッチ式洗浄装置 |
㈱ダルトン | 各種洗浄装置 |
HUGパワー㈱ | 各種洗浄装置 |
海外の洗浄装置メーカー
Lam Research | アメリカ | 枚葉式洗浄装置 |
Applied Materials | アメリカ | 枚葉式洗浄装置 |
SEMES | 韓国 | 枚葉式洗浄装置、バッチ式洗浄装置 |
KCTECH | 韓国 | 枚葉式洗浄装置、バッチ式洗浄装置 |
ACM Research | 中国 | 枚葉式洗浄装置 |
NAURA Technology Group | 中国 | バッチ式洗浄装置 |
RENA | ドイツ | バッチ式洗浄装置 |