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シリコンカーバイド(SiC)パワー半導体〜xEV向けに期待:ウエハ品質向上/大口径化が普及のカギ

デバイス

シリコンカーバイド(SiC)パワー半導体が、電力変換効率の向上と省エネルギー化を実現する次世代デバイスとして注目を集めています。本記事では、SiCの基本的な特性から最新の市場動向、主要な用途、技術的課題まで、包括的に解説します。

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SiCとは?

SiCの基本構造

SiC(シリコンカーバイド)は、シリコン(Si)と炭素(C)の化合物半導体です。結晶構造は、シリコンと炭素原子が交互に結合した六方晶系または立方晶系を取ります。この独特な結晶構造が、SiCの優れた物性を生み出す源となっています。

SiCの物性的特長

SiCは、従来のシリコン半導体と比較して、以下の優れた特性を持っています:

  1. 大きなバンドギャップ:Siの約3倍
  2. 高い熱伝導率:Siの約3倍
  3. 高い絶縁破壊電界強度:Siの約10倍

これらの特性により、SiCは高温・高周波・高電圧環境下での動作に適しており、パワーデバイスの性能向上に大きく貢献します。

SiCの利点

SiCパワー半導体の主な利点は以下の通りです:

  1. 低オン抵抗:電力損失の低減
  2. 高温動作:冷却システムの簡素化
  3. 高速スイッチング:高周波動作による小型化
  4. 高耐圧:同じ耐圧でより薄いチップ設計が可能

これらの特長により、SiCデバイスは機器の小型化、軽量化、高効率化を実現し、CO2排出量の削減にも貢献します。

SiCの市場規模

現在の市場規模

2023年のSiCパワー半導体市場は、前年比63%増の3870億円に達しました。この急成長は、自動車・電装向けやエネルギー分野での旺盛な需要に支えられています。

将来の市場予測

富士経済の調査によると、SiCパワー半導体市場は2035年には3兆1510億円規模に成長すると予測されています。これは、2023年の市場規模の約8倍に相当し、年平均成長率(CAGR)で約18%の成長が見込まれています。

市場成長の要因

SiC市場の急成長の主な要因は以下の通りです:

  1. 電気自動車(EV)の普及拡大
  2. 再生可能エネルギーの導入増加
  3. 産業機器の高効率化ニーズ
  4. 5G通信インフラの整備

特に、自動車産業におけるEVシフトが、SiCパワー半導体の需要を大きく牽引すると予想されています。

SiCの主な用途

自動車産業

SiCパワー半導体は、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)のインバーター、DC-DCコンバーター、オンボードチャージャーなどに広く採用されています。SiCデバイスの使用により、車両の航続距離延長、充電時間の短縮、車両の軽量化が実現します。

産業機器

工場の生産ラインや大型設備で使用されるモーター制御、インバーター、UPS(無停電電源装置)などにSiCパワー半導体が採用されています。高効率化と小型化により、省エネルギーと設備のコンパクト化に貢献します。

エネルギー分野

太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーシステム、スマートグリッド、電力変換装置にSiCパワー半導体が使用されています。高効率な電力変換により、エネルギーロスの低減と系統安定化に寄与します。

SiCの主な種類

SiC MOSFET

SiC MOSFETは、高速スイッチングと低オン抵抗を特徴とするパワーデバイスです。主に中高耐圧領域(600V~3.3kV)で使用され、EVのインバーターや産業用モーター制御などに適しています。トレンチ構造の採用により、さらなる性能向上が図られています。

SiCショットキーバリアダイオード(SBD)

SiC SBDは、高速スイッチングと低順方向電圧降下を特徴とするダイオードです。シリコンのPNダイオードと比較して、逆回復損失が極めて小さく、高効率な電力変換を実現します。EVの充電システムや太陽光発電のパワーコンディショナーなどに使用されています。

SiC JFET

SiC JFETは、ノーマリーオン型とノーマリーオフ型があり、高温動作に優れた特性を持ちます。特に、宇宙用途や極限環境下での使用に適しています。ただし、駆動回路の複雑さから、MOSFETほど広く普及していません。

SiCの技術的な課題

結晶品質の向上

SiCウェハの結晶欠陥(マイクロパイプ、基底面転位など)の低減が課題となっています。結晶品質の向上は、デバイスの信頼性と歩留まりの改善に直結します。現在、エピタキシャル成長技術の改良や新たな結晶成長方法の開発が進められています。

コスト削減

SiCデバイスの製造コストは、従来のシリコンデバイスと比較してまだ高価です。ウェハの大口径化(現在は6インチが主流)、製造プロセスの効率化、歩留まりの向上などを通じて、コスト競争力の強化が求められています。

信頼性の確保

SiCデバイスの長期信頼性、特に高温・高電界下での動作安定性の確保が課題です。ゲート酸化膜の品質向上、界面特性の改善、パッケージング技術の高度化などが進められています。三菱電機は独自のゲート酸化膜製法により、長期使用における品質安定性を実現しています。

SiCのトップシェアメーカー

企業名会社概要製品の特長
ローム株式会社京都本社の半導体大手。SiC事業に積極投資、グローバル展開中。世界トップクラスのシェア。8インチウェハ対応。一貫生産体制と低欠陥化技術。
インフィニオン・テクノロジーズドイツ最大の半導体メーカー。欧州・アジアに大規模工場。EV用途にも強み。SiC市場世界上位。高耐圧・高効率のデバイス。自動車等の電動化需要に対応。
ウルフスピード米国ノースカロライナ本社。世界最大級SiC材料サプライヤー。高純度SiCウェハ・デバイス分野リード。大型工場計画で生産能力拡大。
三菱電機株式会社パワー半導体日本最大手。鉄道・車載分野で高実績。長寿命・高信頼性チップ技術、世界初エアコン・新幹線採用実績。高耐圧・低損失。
デンソー株式会社自動車部品世界大手。車載用SiCを長年研究。独自ガス成長法による低コスト技術。EVインバーター等で高効率化・小型化。
STマイクロエレクトロニクススイス本社の半導体大手。グローバルに展開。2023年世界首位シェア。幅広いSiCパワーデバイス、EV・産業用電源に強み。
onsemi(オンセミ)米国本社。急速に市場シェア拡大中。高性能・多様なラインナップ。自動車、産業、エネルギー分野向け。

中国におけるSiCビジネスの発展

中国におけるSiCビジネスが急速に発展しています。技術面では急速に高度化して国際競争力を強化し、ビジネス面では政府支援と大規模投資で垂直統合型の企業が成長を牽引し、世界市場で存在感を急拡大しています。

  • 中国勢の研究開発と存在感拡大
    国際学会「ISPSD 2025」では、中国からの投稿論文が全体の約半数を占めるなど、研究開発力が著しく向上しています。
  • 市場動向と競争力
    中国は世界最大のEV市場を背景にSiCパワー半導体の需要が急増。太陽光や風力発電の普及も追い風となっているほか、中国政府の強力な支援により大規模な工場が立ち上がり、6インチSiCウェハーの価格を従来の1500ドルから300~500ドル程度に抑え、国際競争力を高めています。
  • グローバル市場への影響
    中国勢の台頭により、SiCパワー半導体の価格形成に影響が及び、西側企業の財務基盤に影響を与える事例も見られます。米ウルフスピードの財務不安もこの文脈で言及されています。
  • 主要企業と特色
企業名概要
華潤微電子(CR Micro)設計から製造・販売まで垂直統合型のビジネスモデルで、産業用や家電向け製品が強み。地元政府との連携も特徴です。
杭州士蘭微電子(Silan Microelectronics)自社で設計からパッケージングまで行う垂直統合体制を持ち、コスト管理と品質向上に優れています。家電・産業機器市場に密着し、SiC分野への積極投資も進めています。
斯達半導体(StarPower Semiconductor)IGBTを中心に、電動車や再生可能エネルギー向けに強みを持ち、中国政府の支援を受け急速に市場シェアを拡大しています。
TankeBlue Semiconductor, TYSiCスタートアップも台頭し、SiCエピタキシャルウェーハの製造・研究開発で大きな資金調達を実施し、グローバル大手と提携する動きもあります。

まとめ

SiCパワー半導体は、高効率・高性能な次世代デバイスとして、自動車、産業機器、エネルギー分野など幅広い用途で急速に普及が進んでいます。市場規模は2035年に3兆円を超える見込みであり、今後の技術革新と生産能力の拡大が期待されます。

一方で、結晶品質の向上やコスト削減、長期信頼性の確保など、克服すべき技術的課題も残されています。日本企業も含めたグローバルな競争が激化する中、SiC技術の進化が省エネルギー社会の実現に大きく貢献することは間違いありません。

加えて、中国企業は政府の強力な支援と大規模な投資により、設計から製造、パッケージングまでの垂直統合体制を構築し、技術力の急速な向上とコスト競争力の強化を実現しています。これにより世界市場での存在感を急速に拡大しており、SiCパワー半導体分野における国際競争の一翼を担う重要なプレイヤーとなっています。

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