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【第4号】「柵」はもう効かないのか——MATCH法が問う半導体デカップリングの限界

2026年4月、米国議会に超党派で提出された「MATCH法(Multilateral Alignment of Technology Controls on Hardware Act)」が、半導体サプライチェーンを揺さぶり続けています。対中半導体輸出規制の「抜け穴」を塞ぐことを名目に、日本・オランダなど同盟国にも150日以内の追随を求めるこの法案。成立すれば、東京エレクトロンやASMLを中心とした装置メーカーのビジネスモデルを根底から変えかねません。

一方、中国側はといえば、EUV露光装置なしに7nmチップを量産し、2030年に80%の半導体自給を目指すと宣言しています。「規制が技術開発を加速する」という逆説的な現実が、今まさに進行しています。

深掘り①:MATCH法とは何か——同盟国を”巻き込む”新たな手法

2022年以来、米国の対中輸出規制は主に商務省のBIS(産業安全保障局)が行政ルールとして運用してきました。MATCH法が既存の規制と本質的に異なる点は、この規制を「法律」として固定化しようとすること、そして同盟国への拘束力を持たせようとすることです。

具体的にMATCH法が狙う「2つの抜け穴」があります。

1つ目は、ArF液浸露光装置(DUV)の継続販売です。EUV露光装置の中国輸出は既に禁止されていますが、一世代前のDUV装置については日本・オランダ企業による販売が続いてきました。SMICはこのDUV装置を使ったマルチパターニング技術で7nmチップの量産に成功しており、現在は5nm開発も進めています(現状の歩留まりは約20%)。

2つ目は、保守・サービスの継続です。米国企業は中国設置済み装置へのサービスを禁じられていますが、東京エレクトロンやASMLは同様の制限を受けていませんでした。エンジニア派遣による修理・アップグレード支援が、中国の製造能力維持に貢献してきたとされています。

MATCH法が成立すれば、同盟国は150日以内に同様の規制を導入するか、さもなくば米国の外国直接産品ルール(FDPR)が発動されます。TrendForceの分析では、MATCH法成立後に中国が製造できる最先端ノードは65〜55nm程度にとどまる可能性があるとされています。

深掘り②:中国の「逆説的な技術加速」

しかし、ここで歴史的な皮肉を直視しなければなりません。米国の輸出規制は、当初の目的である「中国の技術的台頭の抑止」において、期待通りの成果を上げていないという厳しい評価が各方面から出ています。

R Street Instituteの分析によれば、2022年10月の対中規制発表以降、規制を受けた米国企業の時価総額は合計1,300億ドル減少し、売上高も8.6%下落しました。中国側はといえば、国内の代替サプライヤーとの新たな協力関係を構築することで、米国サプライヤーとの関係縮小を補完しています。

実態として、中国の半導体装置支出は2026年に475億ドル(UBS推計)に達する見通しであり、2027年には500億ドルへ増加すると予測されています。これは規制によって需要が消えたのではなく、国内調達へシフトしていることを示しています。

シリコンウェーハでも同様の動きが確認されています。中国の西安Eswinは12インチウェーハ生産能力を急速に積み上げており、2026年中に月産120万枚規模を目標としています。SMICやYMTC(長江存儲)など国内ファウンドリへの供給を固めながら、グローバルシェアを10%超へ引き上げる計画です。

深掘り③:東京エレクトロンへの現実的影響

日本の半導体装置産業にとって、MATCH法の行方は事業の根幹にかかわる問題です。東京エレクトロンは売上の相当部分を中国市場に依存しており、ASMLも中国向け売上比率が2025年の約33%から2026年は約20%程度まで低下すると予測されています。

一方、MATCH法成立を前提に動く市場の反応も既に起きています。法案発表翌日(4月7日)にASML株は一時7%下落しました。東京エレクトロンも保守サービス収入への影響懸念から売り圧力を受けています。

ただし、MATCH法はまだ立法プロセスの途中であり、下院外交委員会での修正を経て内容が軟化している部分もあります。議会内でも「規制がむしろ中国の自立を早める」という反論が出ており、最終的な成立形態と時期は流動的です。

考察:「小さな庭と高い柵」戦略の臨界点

バイデン政権が掲げた「Small Yard, High Fence(小さな庭に高い柵)」という戦略的コンセプトは、規制対象を最先端技術に絞り込む代わりに、その柵を徹底的に高くするというものでした。しかし、今や「庭の外」のDUVという一世代前の技術で、中国が7nmチップを量産し始めている。これは戦略が破綻しつつある証左ともいえます。

日本の製造エンジニアが今後直面するのは、「中国市場へのアクセス喪失」という単純なリスクではなく、「中国が独自の装置・材料・設計エコシステムを完成させた後の世界」でどう戦うか、という構造的問いです。

日本政府はラピダスを通じた先端ノード製造への集中投資と並行して、半導体装置・材料分野での国際競争力維持というバランスを保ち続けなければなりません。MATCH法は、その綱渡りをさらに難しくする変数として、今後も注視が必要です。

次号は「材料」テーマを予定しています。SiC基板・ガリウム系材料と中国のレアアース戦略について取り上げます。