半導体パッケージングは、シリコンウエハ上に作られた素子を製品として取り扱えるようにするための最終工程です。この工程は、微細化と高集積化が進む半導体チップの性能を最大限に引き出すために、ますます重要性を増しています。本記事では、半導体パッケージング工程の基本的な流れと、業界における最新のトレンドについて詳しく解説します。
半導体パッケージング工程の基本的な流れ
一般的なパッケージング工程は、以下の順序で行われます:
- プロービング(ウエハ検査)
- バックグラインド(裏面研削)
- ダイシング(切断)
- チップ・ダイボンディング
- ワイヤボンディングまたはフリップチップボンディング
- モールディング(樹脂封止)
- 最終検査
それでは、各工程について詳しく見ていきましょう。
プロービング(ウエハ検査)
目的と重要性
プロービングは、前工程で作製したウエハ上のチップの回路が正常に機能するかを全数検査する重要な工程です。この工程により、不良品を早期に発見し、後続の工程での無駄な処理を防ぐことができます。
プロセスの詳細
- プローブと呼ばれる探針を各チップの電極に接触させます。
- 電気特性をチェックし、不良品を特定します。
- 良品は、KGD(Known Good Die)と呼ばれ、後続の工程に進みます。
最新技術とトレンド
- 全自動化: LSIなど先端の半導体試験装置は完全に自動化されています。ウエハキャリアーから搬送ロボットが一枚ずつウエハを取り出し、プローブカードと呼ばれる治具でウエハ単位で一括検査を行います。
- 高精度プローブカード: 先端のLSIの微細化に伴い、プローブカードの製造工程も非常に精密になっています。製品ごとに専用のプローブカードが必要とされ、その製造には高度な技術が要求されます。
バックグラインド(裏面研削)
目的と重要性
バックグラインドは、ダイシング工程前にウエハの裏面を研削して薄くする工程です。この工程は、最終製品の薄型化と性能向上に直結する重要なステップです。
プロセスの詳細
- 300mmシリコンウエハの規格厚さ775μmを、100μm以下まで薄くします。
- 研削には高精度の研削装置が使用され、ウエハ全体で均一な厚さを実現します。
薄型化の意義
- 携帯端末向け: スマートフォンなどの携帯端末では、チップの薄さが製品の薄型化に直結します。
- パワーデバイス: シリコンを薄くすることで、電気抵抗が低減し、性能が向上します。
最新技術とトレンド
- 極薄ウエハ処理: 最新の技術では、50μm以下の極薄ウエハの処理が可能になっています。
- ストレスリリーフ技術: 薄化によるウエハの反りを防ぐため、ストレスリリーフ技術の開発が進んでいます。
ダイシング(切断)
目的と重要性
ダイシングは、ウエハをチップサイズに切断する工程です。この工程の精度は、チップの収率と品質に直接影響します。
従来の方法
- ダイシングソー(ダイサー): ダイシングブレードと呼ばれる円盤型の歯を高速回転させて切断します。
- 課題: 機械的な切断のため、シリコンウエハの角が欠ける「チッピング」が問題となることがあります。
最新技術とトレンド
- ステルスダイシング:
- レーザーを使った切断方法です。
- ウエハ内部にレーザーを照射して改質層を形成し、その後外力を加えて分離します。
- チッピングが少なく、より薄いチップの製造が可能です。
- プラズマダイシング:
- プラズマを用いてウエハを切断します。
- 機械的なストレスが少なく、微細なパターンの切断に適しています。
- ウェットエッチング:
- 化学的な方法でウエハを切断します。
- 複雑な形状の切断が可能で、特殊なデバイスの製造に使用されます。
チップ・ダイボンディング
目的と重要性
チップ・ダイボンディングは、個片化した半導体チップを支持体となる基板上に固着させる工程です。この工程は、チップの電気的・機械的接続の基礎となる重要なステップです。
プロセスの詳細
- ダイボンダ装置によりチップをピックアップします。
- 基板上に接着剤を塗布します。
- チップを基板上に精密に配置し、固定します。
接着方法の種類
- 従来の方法:
- 銀ペーストを使用し、加熱により樹脂成分を硬化させます。
- 熱伝導性に優れ、パワーデバイスなどに適しています。
- フリップチップ方式:
- チップを逆さまにして基板に接合します。
- 金やスズによる接合を行います。
- アンダーフィル剤や異方性導電接着膜(ACF)を使用して、チップと基板間の隙間を埋めます。
最新技術とトレンド
- 超音波接合: 超音波を用いて金属同士を直接接合する技術が開発されています。
- ナノ粒子接合: 金や銀のナノ粒子を用いた低温接合技術が注目されています。
- 自己組織化技術: チップの自動位置合わせを可能にする自己組織化技術の研究が進んでいます。
ワイヤボンディング
目的と重要性
ワイヤボンディングは、チップと基板の電極を金属線で接続する工程です。この工程は、チップと外部回路との電気的接続を確立する上で極めて重要です。
使用材料
- 金(Au): 高い信頼性が要求される高付加価値製品に使用されます。
- アルミニウム(Al): 汎用のパワーデバイスやディスクリート製品に一般的に使用されます。
- 銅(Cu): 安価でアルミよりも電気抵抗が低く、大電流を流す用途に適しています。
プロセスの詳細
- キャピラリーと呼ばれる中空状の治具を使用します。
- 金属ワイヤを加圧、加温して溶融させます。
- チップ側の電極に押しつけて接合します(ファーストボンド)。
- ワイヤを引き出しながら基板側の電極まで移動します。
- 基板側の電極に押しつけて接合します(セカンドボンド)。
最新技術とトレンド
- 細線化: より細いワイヤを使用することで、高密度実装が可能になっています。
- 低ループ化: ワイヤのループ高さを低くすることで、パッケージの薄型化に貢献しています。
- 銅ワイヤの普及: コスト削減と性能向上のため、銅ワイヤの使用が増加しています。
モールディング(樹脂封止)
目的と重要性
モールディングは、半導体チップを外部環境から保護するために樹脂材料で封止する工程です。この工程は、製品の信頼性と耐久性を確保する上で非常に重要です。
封止方法
- トランスファモールディング:
- キャビティと呼ばれる薄い閉じられた空間に、溶融させた樹脂を流動させます。
- チップと基板を樹脂で満たした後に冷却して固めます。
- コンプレッションモールディング:
- キャビティ内に液状化させた樹脂を予め貯めた状態で、チップと基板を浸漬します。
- 加圧して樹脂を固めます。
封止材料
- エポキシ樹脂にシリカフィラーを混合した複合材料が一般的に使用されます。
- この材料は、放熱性を向上させ、熱膨張率を抑える効果があります。
最新技術とトレンド
- 高熱伝導性樹脂: より高い放熱性能を持つ樹脂材料の開発が進んでいます。
- 低応力樹脂: チップへの機械的ストレスを軽減する低応力樹脂の使用が増えています。
- 薄型封止技術: ウエハレベルパッケージングなど、極薄の封止技術が開発されています。
最新のパッケージング技術トレンド
高性能パッケージング技術
- FC-BGA(フリップチップ-ボールグリッドアレイ)
- パソコンやサーバー向けCPU、GPUの主流となっています。
- 多層基板上にチップをはんだ接続し、高い性能と信頼性を実現します。
- SiP(システムインパッケージ)によるチップレット化が進行しており、異なるデザインルールで作られたチップを一つのパッケージに統合することが可能になっています。
- FO-WLP(ファンアウト-ウエハレベルパッケージング)
- TSMCのInFOがiPhoneのアプリケーションプロセッサに採用されました。
- 従来の多層基板を使わないパッケージング手法で、より薄型で高性能なパッケージを実現します。
- 再配線層(RDL)技術を用いて、チップの端子を効率的に引き出します。
- 2.5D実装
- シリコンインターポーザを使用し、複数のチップを高密度に実装します。
- シリコン貫通電極(TSV)と再配線層(RDL)を組み合わせて、チップ間の高速・短距離接続を実現します。
- FPGAなどのHPC(High performance computing)用途に採用されており、高性能と低消費電力を両立します。
パッケージの小型化・高性能化
- チップの微細化、集積化に伴い、パッケージング工程も複雑化しています。
- 厳しいプロセス要求に応える新材料の開発が進んでいます。例えば、低誘電率材料や高熱伝導性材料の研究が活発です。
- 異種デバイス間の短い配線接続による性能向上が図られています。これにより、信号遅延の低減と消費電力の削減が可能になっています。
自動化と精密化
- 検査工程の全自動化が進んでおり、人的エラーの削減と生産性の向上が図られています。
- プローブカードの製造工程の精密化により、より微細なチップの検査が可能になっています。
- ダイシング技術の進化(レーザー切断、ウェットエッチング)により、チップの品質向上と歩留まりの改善が実現しています。
参考サイト
以下は、半導体パッケージング技術に関連する技術記事が掲載されているサイトのリストです:
- 半導体パッケージング技術の最新動向
3次元実装技術や先端パッケージ実装技術について詳細に解説しています。FC-BGA、FO-WLPなどの最新技術トレンドも紹介しています。 - 半導体製造プロセスの解説
半導体製造工程の全体像を初心者にもわかりやすく説明しています。ウェハ製造からパッケージングまでの各工程を詳しく解説しています。 - 次世代半導体パッケージ技術の解説
レゾナックが提供しています。3Dパッケージを目指して開発が進む最先端の次世代半導体パッケージ技術について、課題と技術動向を解説しています。 - 半導体パッケージングソリューション
アムコー・テクノロジーが提供する様々な半導体パッケージングソリューションを紹介しています。リードフレームからSystem in Package (SiP)まで幅広い技術を解説しています。 - 半導体の後工程「OSAT」の解説
東京エレクトロンが提供。半導体製造の後工程に当たるパッケージングとテストを専門で請け負うOSAT企業の役割と、最新の技術動向について解説しています。 - 半導体の前工程と後工程の違い
半導体製造における前工程と後工程の違いを詳しく解説し、それぞれの工程の重要性と技術的特徴を説明しています。 - 半導体(IC)パッケージとは
京セラが提供する半導体パッケージの基本的な情報と、同社が提供するパッケージ製品について説明しています。 - 半導体パッケージング市場 – 2024年~2029年までの予測
半導体パッケージング市場の成長予測と市場動向について詳細なレポートを提供しています。
まとめ
半導体パッケージング工程は、チップの高性能化と小型化の要求に応じて、常に進化を続けています。新しい材料や技術の導入により、より高性能で信頼性の高い半導体製品の製造が可能になっています。今後も、5G通信、AI、IoTなどの新技術の普及に伴い、半導体パッケージング技術はさらなる革新を遂げていくことが予想されます。この分野の技術革新は、私たちの日常生活を支える電子機器の進化に直結しており、その重要性はますます高まっていくでしょう。