半導体製造における熱処理装置:熱を操る!電子デバイスの高度な生産性に貢献

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半導体製造において、熱処理装置は製品の品質と性能を左右する重要な役割を果たしています。本記事では、ウエハプロセスで使用される酸化装置、拡散装置、アニール装置に焦点を当て、これらの装置の基本概念から最新の市場動向、主要な用途、そして業界をリードする製造メーカーまでを詳しく解説します。半導体技術の進化を支える熱処理装置をご紹介。

熱処理装置に関する最新ニュース

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熱処理装置とは?

熱処理プロセスの基本

半導体製造における熱処理プロセスは、ウエハに熱を加えて物理的・化学的変化を引き起こす重要な工程です。この工程により、半導体デバイスの電気的特性や信頼性が決定されます。熱処理プロセスは、半導体製造の様々な段階で行われ、例えば、酸化膜の形成、不純物の活性化、結晶構造の改善、薄膜の密度化などに使用されます。これらのプロセスは、デバイスの性能向上や歩留まりの改善に直接的に影響を与えるため、極めて重要視されています。

熱処理装置の役割

熱処理装置は、酸化膜の形成、不純物の拡散、結晶構造の改善など、様々な目的で使用されます。これらの装置は、精密な温度制御と均一な熱分布を実現し、ナノメートルレベルの加工精度を可能にします。例えば、酸化装置では、シリコン表面に数ナノメートルの厚さの高品質な酸化膜を形成することができます。また、拡散装置では、ドーパント原子を精密に制御しながらシリコン結晶内に拡散させることができます。アニール装置は、イオン注入後の結晶欠陥を修復し、不純物を電気的に活性化させる役割を果たします。これらの装置は、半導体デバイスの性能と信頼性を決定づける重要な要素となっています。

熱処理技術の進化

近年の半導体の微細化と高集積化に伴い、熱処理技術も進化を続けています。低温・短時間処理や、局所的な熱処理など、新しい技術が次々と開発されています。例えば、急速熱処理(RTP)技術の導入により、処理時間を大幅に短縮しつつ、熱ストレスを最小限に抑えることが可能になりました。また、レーザーアニールやフラッシュランプアニールなどの技術により、ウエハ表面のみを瞬間的に加熱し、基板への熱影響を抑制することができるようになりました。さらに、原子層堆積(ALD)と熱処理を組み合わせた新しいプロセスも開発されており、より精密な薄膜形成が可能になっています。

熱処理装置の市場規模

グローバル市場の成長

半導体用熱処理装置の世界市場は、2023年に約50億ドルに達し、2030年までに年平均成長率(CAGR)6.5%で成長すると予測されています。この成長は、5G通信、人工知能(AI)、Internet of Things(IoT)、自動運転車などの新技術の普及に伴う半導体需要の増加に支えられています。特に、高性能コンピューティング(HPC)向けの先端ロジックデバイスや、大容量データセンター向けのメモリデバイスの需要が市場をけん引しています。また、電気自動車(EV)の普及に伴うパワー半導体の需要増加も、熱処理装置市場の成長を後押ししています。

地域別市場動向

アジア太平洋地域、特に台湾、韓国、中国が市場をリードしており、2023年時点で全体の60%以上のシェアを占めています。北米と欧州も安定した成長を続けています。台湾では、TSMCを筆頭とする大手ファウンドリの積極的な設備投資が市場をけん引しています。韓国では、サムスン電子やSK hynixによるメモリ製造ラインの拡張が需要を支えています。中国では、政府の半導体産業育成政策「中国製造2025」の下、国内企業による大規模な投資が行われています。一方、北米では、インテルやグローバルファウンドリーズによる先端ロジックプロセスの開発が市場を牽引しています。欧州では、自動車産業向けのパワー半導体製造が市場成長の主な要因となっています。

技術革新による市場拡大

次世代半導体デバイスの開発に伴い、SiC、GaNなどの新材料向けの熱処理装置需要が急増しています。これにより、2025年以降さらなる市場拡大が期待されています。SiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体は、高温・高電圧・高周波動作が可能であり、電力変換効率の向上や機器の小型化に貢献します。これらの材料は、従来のシリコンよりも高温での熱処理が必要であり、1600℃以上の超高温処理が可能な専用装置の需要が増加しています。また、3D NANDフラッシュメモリの多層化技術の進展に伴い、高アスペクト比構造に対応した新しい熱処理技術の開発も進んでいます。さらに、量子コンピューティングや神経形態コンピューティングなどの新しいコンピューティングパラダイムに向けた研究開発も、新たな熱処理技術の需要を生み出しています。

熱処理装置の種類

酸化装置

酸化装置は、シリコンウエハ表面に酸化膜を形成するために使用されます。代表的な装置に縦型酸化炉があり、複数枚のウエハを同時に処理できる高い生産性が特徴です。酸化装置は、ゲート絶縁膜、素子分離、パッシベーション膜など、様々な目的で使用されます。最新の酸化装置では、ドライ酸化、ウェット酸化、高圧酸化など、多様な酸化プロセスに対応しています。また、原子層堆積(ALD)技術を組み合わせた装置も登場し、より高品質で均一な酸化膜の形成が可能になっています。さらに、高誘電率(High-k)材料の導入に伴い、従来のシリコン酸化膜だけでなく、ハフニウム酸化物やジルコニウム酸化物などの形成にも対応した装置が開発されています。

拡散装置

拡散装置は、不純物をシリコンウエハ内に拡散させるために使用されます。高温で長時間処理を行うため、温度制御の精度が極めて重要です。最新の装置では、急速熱処理(RTP)技術を採用し、処理時間の短縮と均一性の向上を実現しています。拡散装置は、ソース・ドレイン領域の形成、ウェル形成、チャネルドーピングなど、トランジスタの特性を決定づける重要な工程で使用されます。最新の拡散装置では、ガス流量や圧力の精密制御により、ナノメートルレベルの不純物分布制御が可能になっています。また、プラズマ支援拡散技術を採用した装置も開発され、より低温での不純物活性化が実現しています。さらに、3次元構造デバイスに対応するため、コンフォーマルドーピング技術を搭載した装置も登場しています。

アニール装置

アニール装置は、イオン注入後の結晶欠陥修復や、不純物の活性化に使用されます。近年では、フラッシュランプアニールやレーザーアニールなど、瞬間的に高温処理を行う技術が注目されています。これらの技術により、ミリ秒からマイクロ秒オーダーの超短時間で熱処理を行うことが可能となり、不純物の拡散を抑制しつつ高い活性化率を実現できます。また、スパイクアニールやミリ秒アニールなど、RTP技術の進化により、より精密な温度プロファイル制御が可能になっています。さらに、マイクロ波アニールや光アニールなど、新しい加熱方式を採用した装置も開発されており、より均一で効率的な熱処理が実現しています。最新のアニール装置では、in-situ計測技術を搭載し、リアルタイムでウエハの温度分布や表面状態をモニタリングすることで、プロセスの最適化と歩留まりの向上を図っています。

熱処理装置の主な用途

トランジスタ形成プロセス

MOSFETなどのトランジスタ形成において、ゲート酸化膜の形成やソース・ドレイン領域の不純物拡散に熱処理装置が使用されます。最新のFinFETやGAA(Gate-All-Around)トランジスタでは、より精密な熱処理が要求されています。例えば、FinFETのフィン構造形成後のアニールプロセスでは、フィンの形状を維持しつつ結晶欠陥を修復する必要があり、局所的な熱処理技術が重要となります。GAAトランジスタでは、ナノシート構造周りの均一な酸化膜形成や不純物活性化が課題となっており、3次元構造に対応した新しい熱処理技術の開発が進んでいます。また、チャネル材料としてSiGeやIII-V族化合物半導体を導入する動きも活発化しており、これらの材料に適した熱処理プロセスの開発も行われています。

メモリデバイス製造

DRAMやNAND型フラッシュメモリの製造プロセスでは、キャパシタ形成や絶縁膜形成に熱処理装置が不可欠です。特に3D NANDの製造では、高アスペクト比の構造に対応した特殊な熱処理技術が開発されています。例えば、3D NANDの製造では、数十層から百層以上の積層構造を形成する必要があり、深いホール内部まで均一に酸化膜を形成するための熱処理技術が重要です。また、DRAMのキャパシタ形成では、高誘電率材料の結晶化や電極材料の熱処理が重要な工程となっており、低温での高品質な薄膜形成技術が求められています。さらに、新しい不揮発性メモリ技術であるSTT-MRAM(スピン転送トルク磁気抵抗メモリ)やReRAM(抵抗変化型メモリ)の開発においても、磁性材料や抵抗変化材料の特性を最適化するための熱処理技術が重要な役割を果たしています。

パワー半導体製造

SiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体の製造では、従来のシリコンよりも高温での熱処理が必要です。このため、1600℃以上の超高温処理が可能な専用装置が開発されています。SiCデバイスの製造では、イオン注入後の高温アニール(1600℃以上)が必要であり、この温度域で安定して動作する熱処理装置の開発が進んでいます。また、GaNデバイスの製造では、エピタキシャル成長後の活性化アニールや、オーミック電極形成のための合金化アニールなど、様々な熱処理プロセスが必要とされます。これらの高温プロセスでは、ウエハの反りや熱応力の制御が重要な課題となっており、特殊な熱処理装置やウエハ支持技術の開発が行われています。さらに、パワーデバイスの高性能化に伴い、超接合構造やトレンチ構造など、より複雑な3次元構造に対応した熱処理技術の開発も進んでいます。

熱処理装置の主な製造メーカー

グローバルリーダー企業

Applied Materials、東京エレクトロン、SCREEN Holdingsなどのグローバル企業が市場をリードしています。これらの企業は、最先端の熱処理技術を開発し、世界市場をリードしています。これらの企業は、高精度な温度制御や均一な熱分布を実現する技術を持ち、半導体製造プロセスの効率化と品質向上に貢献しています。

日本の主要メーカー

日本国内では、KOKUSAI ELECTRIC、ニューフレアテクノロジー、JTEKT(光洋サーモシステム)などが、高品質な熱処理装置を製造しています[7]。これらの企業は、高い技術力と品質管理で国際市場でも競争力を維持しています。例えば、JTEKTは次世代パワー半導体材料SiC、GaN、Ga2O3の熱処理工程で使用される装置をラインアップしており、VCSEL(面発光レーザー)の酸化工程に不可欠な装置として世界各国で高シェアを獲得しています[7]。

新興メーカーの台頭

中国のNAURA Technologyや韓国のEUGENE Technologyなど、新興メーカーも急速に技術力を向上させています。特に、中国市場向けの装置開発で存在感を増しています。これらの企業は、コスト競争力と技術革新により、グローバル市場でのシェア拡大を目指しています。

熱処理装置市場は、半導体産業の成長とともに拡大を続けており、今後も新たな技術開発や市場参入が予想されます。特に、SiCやGaNなどの次世代パワー半導体向けの高温熱処理装置や、3D NANDなどの3次元構造デバイス向けの精密熱処理装置の需要が増加すると見込まれています[3]。

参考サイト:

[1] 熱処理装置の製品一覧
[2] キヤノン、「SEMICON Japan 2024」に出展 ~半導体製造装置の最新ラインアップを紹介~
[3] 半導体製造装置の種類と特徴
[4] 赤外線ランプアニール装置 RTAシリーズ|アルバック
[5] 半導体製造装置の国産化、日本勢の”逆転”なるか
[6] 熱処理技術|株式会社ジェイテクトサーモシステム
[7] 半導体製造装置|株式会社ジェイテクト
[8] キヤノンアネルバ、常温で異種材料を接合できる新型原子拡散接合装置「BC7300」を発売