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窒化ガリウム(GaN)パワー半導体〜5G基地局/データセンター/EV高速充電/エネルギーを大変革

デバイス

窒化ガリウム(GaN)は、次世代パワー半導体デバイスの主役として注目を集めています。高効率、高速スイッチング、高耐圧性能を持つGaNは、従来のシリコン(Si)デバイスを凌駕し、電力変換効率の向上と機器の小型化を実現します。本記事では、GaNの基本から最新の市場動向、主要な用途、技術的課題まで、包括的に解説します。

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GaN関連の最新ニュース

  • ロームとTSMCの戦略的パートナーシップ
    2024年12月10日、ローム株式会社はTaiwan Semiconductor Manufacturing Company Limited(TSMC)と車載GaNパワーデバイスの開発と量産に関する戦略的パートナーシップを締結しました[1]。このパートナーシップでは、ロームのGaNデバイス開発技術とTSMCの最先端GaN-on-Siliconプロセス技術を組み合わせ、高電圧・高周波特性に優れたパワーデバイスの需要に応えることを目指します。特に電気自動車(EV)のオンボードチャージャーやインバーターなどの車載用途での環境効果が期待されています。
  • Infineonの300mm GaN技術開発
    2024年9月11日、Infineon Technologies AGは世界初の300mmパワーGaNウェハー技術の開発に成功したと発表しました[5]。この技術は既存の大規模300mmシリコン製造設備を活用し、資本効率を最大化します。Infineonは、この画期的な技術により急成長するGaN市場を形作ると述べています。300mm GaN製造は、シリコンとのコスト同等性を達成し、GaN市場が2020年代末までに数十億ドル規模に達すると予測される中で、重要な役割を果たすと期待されています。
  • MACOMのGaN-on-SiC開発プロジェクト
    2024年11月4日、MACOM Technology Solutions Inc.は、先進的なシリコンカーバイド(SiC)基板上のGaNプロセス技術開発プロジェクトをリードすることが選ばれたと発表しました[6]。このプロジェクトは、CHIPS and Science Act(CHIPS)を通じて米国国防総省(DoD)から資金提供を受け、高電圧・ミリ波周波数で効率的に動作するGaNベースの材料とモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)の半導体製造プロセス開発に焦点を当てます。

GaNとは?

1. 化合物半導体の一種

GaN(Gallium Nitride:窒化ガリウム)は、ガリウムと窒素からなる化合物半導体です。従来のシリコン(Si)と比べて、優れた電気特性を持っています。特に、高い耐圧性と熱伝導性を有し、高温環境下でも安定した動作が可能です。この特性は、高出力アプリケーションや高周波数での使用において非常に重要です。

2. 高電子移動度トランジスタ

GaNを使用したトランジスタは、GaN HEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)と呼ばれ、高速スイッチング性能に優れています。これにより、高周波数での動作が可能となり、多くのアプリケーションで利用されています。HEMT技術はRF通信や電力変換システムなど、多岐にわたる用途で採用されており、その市場は今後も拡大する見込みです。

3. 低オン抵抗と高効率

GaNデバイスは、Siデバイスと比較して導通損失が少なく(低オン抵抗)、電力変換効率の向上や小型化の市場要求に応えるパワーデバイスです。この特性は、省エネルギーやコスト削減につながり、多くの企業がGaN技術への移行を進める理由となっています。また、高い電力密度を持つため、小型機器でも高性能な電力供給が可能となります。

GaNと他のパワー半導体の比較

電気特性の違い

4種類のパワー半導体と3つの特性について表にまとめました。

半導体の種類バンドギャップ
(eV)
絶縁破壊電界
(MV/cm)
飽和電子速度
(×10^7 cm/秒)
Si1.10.31.0
GaAs1.40.41.3
GaN3.43.02.7
SiC3.262.82.2

この表から、GaNとSiCはワイドバンドギャップ半導体であり、従来のSiやGaAsと比較して優れた特性を持っていることがわかります。特に、高いバンドギャップと絶縁破壊電界は、高温・高電圧動作に適しています。また、高い飽和電子速度は高周波動作に有利です。

これらの特性により、GaNとSiCは高効率パワーエレクトロニクスや高周波デバイスなどの応用分野で注目されています。

用途の違い

GaNとGaAsの主な用途について、提供されたデータを元に以下の表を作成しました。

分野GaNGaAs
RF/マイクロ波デバイス– 高出力デバイス
– レーダーシステム
– 5G基地局
– 衛星通信
– 中出力デバイス
– スマートフォン用パワーアンプ
– Wi-Fi機器
– ケーブルテレビシステム
パワーエレクトロニクス– 高効率デバイス
– 電気自動車用インバーター
– データセンター用電源
– 産業用モーター制御
アンプ– 高周波アンプ
– 広帯域・高出力アンプ
– 高効率Doherty増幅器
– 低ノイズアンプ
– 受信機フロントエンド
– 測定器
光デバイス– レーザーダイオード
– LED

この表から、GaNは主に高出力・高効率のアプリケーションに適しており、GaAsは中出力RF/マイクロ波デバイスや光デバイスに適していることがわかります。両者はそれぞれの特性を活かして異なる用途で使用されています。

特徴的な違い

  1. 出力密度: GaNはGaAsより高い出力密度を持ち、同じ出力でもより小さなチップサイズで実現可能です。
  2. 動作電圧: GaNは28 V程度の高電圧動作が可能ですが、GaAsは通常5 V程度です。
  3. 広帯域性: GaNはGaAsよりも広帯域動作に適しており、1つのデバイスでより広い周波数範囲をカバーできます。
  4. 熱管理: GaNはより高い動作温度に耐えられますが、高出力密度のため効果的な熱管理が必要です。
  5. コスト: GaAsは成熟した技術であり、現状ではGaNよりも低コストです。ただし、GaNの技術進歩により、将来的にはコスト差が縮まる可能性があります。

GaNの市場規模

急成長する市場

GaNパワーデバイス市場は、2023年の3億9,901万米ドルから2030年には21億6,968万米ドルにまで成長し、CAGR 27.36%で推移すると予測されています。この成長は主に、自動車産業や通信インフラ向けの需要増加によるものです。また、新興国市場でも需要が高まっており、市場全体の拡大につながっています。

地域別市場シェア

アジア太平洋地域が最大市場でシェア約62%、次いで欧州が24%、北米が12%を占めています。特に中国やインドでは、エネルギー効率向上への関心が高まり、それに伴うGaNデバイスへの需要も増加しています。この地域では政府主導で再生可能エネルギーへのシフトが進んでおり、その中でGaN技術が重要な役割を果たすことが期待されています。

製品タイプ別シェア

車載用GaN技術では、200V以上の製品が最大セグメントで68%のシェアを占めています。このセグメントでは、高効率な電力変換やコンパクトな設計が求められており、それに応える形で多くの企業が新製品を投入しています。また、この分野では競争も激化しており、新しい技術革新が求められています。

GaNの主な用途

電力変換システム

GaNデバイスは、通信基地局やデータセンター用サーバー電源、産業機器モーター、ACアダプターなど、様々な電力変換アプリケーションに使用されています。特にデータセンターでは、省エネルギー性能向上と冷却コスト削減が求められており、その解決策としてGaNデバイスが注目されています。また、この分野では新しいビジネスモデルも生まれており、市場全体への影響も大きいです。

自動車産業

電気自動車(EV)のインバーターやオンボードチャージャーなど、自動車産業でのGaN採用が進んでいます。これらのデバイスは高効率かつ小型化されており、自動車メーカーはこれによって性能向上とコスト削減を実現できます。また、自動運転技術との相性も良く、新しいモビリティサービスにも対応できる柔軟性があります。このような背景から、自動車産業内での需要拡大が見込まれています。

通信・RF応用

5Gネットワーク向けRFアンプや4G/LTE基地局用RF包絡線追跡など、高周波応用でもGaNデバイスの使用が拡大しています。5G通信インフラでは、高速かつ安定した通信品質が求められており、その実現にはGaNデバイスによる高出力・低損失性能が不可欠です。さらに、この分野では新しい規格や技術革新も進んでおり、市場全体への影響も大きいです。

GaNの主な種類

パワー半導体

GaNパワーデバイスは、高効率の電力変換アプリケーションに使用されており、そのエネルギー効率改善効果から多くの注目を集めています。これらは特に再生可能エネルギーシステムやEV充電器など、省エネルギー性能向上につながる分野で広く採用されています。また、新しい材料開発によってさらなる性能向上も期待されており、市場競争でも優位性を保つ要素となっています。

RF(高周波)半導体

GaN RFデバイスは、高周波・高出力アプリケーションに適しており、通信インフラや防衛産業で広く使用されています。その特性から、高出力アンプとして利用されることが多く、大規模イベントや軍事用途でも重要な役割を果たしています。また、この分野では新しいテクノロジーとの統合も進んでおり、更なる発展が期待されています。

光半導体

GaNは青色LEDや青紫色レーザーダイオードなど光半導体にも使用されており、この分野でも重要な役割を果たしています。特にLED照明市場では、省エネ効果と長寿命から多く採用されており、その需要は今後も増加する見込みです。また、新しい照明技術との統合も進んでおり、多様な応用範囲があります。

GaNの技術的な課題

高品質・大口径基板の開発

GaN基板の高品質化や大口径化を目指す技術開発が進められています。しかしながら、大口径基板製造にはコストと時間がかかるため、大規模生産にはまだ課題があります。この問題解決には、新しい材料開発や製造プロセス改善など、多方面からアプローチする必要があります。また、この課題克服によって、更なる性能向上とコスト削減につながる可能性があります。

熱管理

GaNデバイスは高電力密度で動作するため、有効な熱管理技術の開発が必要です。過熱による性能低下や故障リスクを避けるためには、新しい冷却技術や材料選定が重要になります。この分野では研究開発活動も活発化しており、新たなソリューション提供へ向けた取り組みも進んでいます。

信頼性と長期安定性

GaNデバイスの長期信頼性や動作安定性向上はさらなる研究開発が求められる分野です。特に過酷な環境下で使用される場合、その耐久性確保は非常に重要です。このためには、新材料開発だけでなく製造プロセスにも改良点があります。信頼性テスト手法も見直されており、市場ニーズへの対応強化につながるでしょう。

GaNのトップシェアメーカー

  • Navitas Semiconductor
    2021年にはGaNパワーデバイス市場で29%という圧倒的シェアを持ちました。同社は独自技術による超小型ICソリューションを提供しており、その革新性から多くのお客様から支持されています。また、新製品開発にも積極的であり、市場ニーズへの迅速な対応能力も評価されています。
  • Power Integrations
    長年GaN市場をリードしてきた企業であり、自社独自のPowiGaN技術によって高効率かつ低コストなソリューション提供を実現しています。同社の商品ラインナップには幅広い用途向け製品があります。また、市場トレンドにも敏感に反応し、新しいニーズへ迅速に対応できる柔軟さがあります。
  • Innoscience
    中国企業として急成長しているInnoscienceは2021年には20%というシェア獲得しました。同社は大規模生産能力とコスト競争力によって急速に市場シェアを拡大しており、その影響力は無視できません。また、中国国内外問わず、多様な顧客層へのサービス提供にも取り組んでいます。

まとめ

窒化ガリウム(GaN)はパワーエレクトロニクス分野だけでなく、多岐にわたる産業へ革新をもたらす重要な半導体材料です。その高効率、高速スイッチング、小型化という特性から、多くの商品開発へ寄与し続けています。また、市場全体として急成長している中、日本企業も強い競争力を維持しつつ新しい挑戦へ取り組んでいます。今後さらに重要性を増すことが予想されるため、この分野への関心と投資はますます必要となります。

参考サイト