ALD(原子層堆積)装置は、半導体製造分野において革新的な技術として注目を集めています。原子レベルでの精密な薄膜形成を可能にするこの装置は、次世代デバイスの開発に不可欠な存在となっています。本記事では、ALD装置の基本原理から最新の市場動向、さらには国内外の最新ニュースまで、幅広く解説します。急速に成長するALD装置市場の全容と、この技術が半導体産業や建設業界にもたらす影響について、詳しく見ていきましょう。2028年には62億ドルに達すると予測される市場規模や、年平均成長率10%という驚異的な成長率からも、ALD技術の重要性が伺えます。大学研究機関での導入事例や、海外企業の大規模投資など、最新のトピックスも交えながら、ALD装置が切り開く未来の可能性に迫ります。
ALD装置関連の最新ニュース
・ALD Japan, Inc. – Atomic Layer Deposition 原子層堆積技術について
2024年9月から2023年5月にかけて、複数の大学や研究機関がALD装置を導入。東京大学、奈良先端科学技術大学院大学、九州大学、徳島大学などがAT-200MやAT-650Pなどの最新ALD装置を採用し、研究開発を進めている。また、新たな材料開発やプロセス改良も行われており、TiNのプロセス開発や粉体用コーティング機構の追加など、技術の進化が見られる。
・ALD装置開発のForge NanoがGMのCVCより15億円を調達。自動車だけでなく、化学、エレクトロニクス、金属のグローバル企業が投資するスタートアップ
米国のALD技術企業Forge Nanoが2024年10月に約15億円の資金調達を実施。GMのCVCからの投資を受け、EVバッテリーの性能向上に向けた共同開発を進める。同社の技術は半導体、バッテリー、化学産業など幅広い分野で注目されている。
・ASM社、韓国への大規模投資を発表
オランダの半導体向けALD装置メーカーASM社が、2025年までに韓国へ約140億円を投資すると発表。製造エリアを3倍に拡張し、人員も増強する計画。半導体産業におけるALD技術の重要性の高まりを示している。
・ALD(原子層堆積)装置の特徴と原理を紹介
2024年11月7日、株式会社菅製作所がALD装置に関する詳細な解説を公開。ALD技術の特徴、原理、装置の仕組みについて説明。特に、SAL1100という粉体成膜用途のドラム型ALD装置を紹介し、粉体や粒状材料への全周囲成膜が可能になったことで、新素材開発分野での活用が期待されている。
・2025年2月28日開催:ALD(原子層堆積法)の基礎とプロセス最適化および最新技術動向セミナー
2024年11月29日、2025年2月28日に開催予定のALDセミナーの案内が公開。東京大学の霜垣幸浩教授が講師を務め、ALDの基礎から最新技術動向まで幅広く解説する。セミナーでは、ALDプロセスの最適化や周辺技術、さらにはAI機械学習の活用など、最新のトピックスも取り上げられる予定。
・原子層堆積装置市場:2029年までに201億4000万ドルに成長予測
2024年1月4日、Mordor Intelligenceが発表した市場調査レポートによると、原子層堆積装置市場は2024年から2029年にかけて年平均成長率17.02%で成長し、2029年には201億4000万ドルに達すると予測。エレクトロニクスと半導体ソリューションの需要増加が市場拡大の主要因とされている。
ALD装置とは?
ALD(Atomic Layer Deposition)装置は、原子層堆積装置の一種で、非常に薄い膜を原子層単位で形成するために設計されています。ALDは、ガス状の前駆体を基板表面に供給し、化学反応を利用して膜を形成します。このプロセスは、膜厚の均一性と精密な制御が可能であり、特に複雑な形状の基板や高アスペクト比の構造に対して優れた性能を発揮します。
ALDの基本原理
ALD装置では、前駆体ガスと反応ガスを交互に供給することで、表面反応を利用して膜を一層ずつ堆積します。この手法により、膜厚の精密な制御が可能となり、微細な構造でも均一な成膜が実現できます。例えば、酸化膜や窒化膜など、多様な材料がALDによって形成されます。
ALD装置の特長
- 高い膜厚制御性: ALDは、原子層単位で膜を形成するため、数ナノメートルから数十ナノメートルの精度で膜厚を調整できます。
- 優れた段差被覆性: 複雑な形状や高アスペクト比の基板でも均一に成膜できるため、多様な用途に対応可能です。
- 低温成膜: 一部のALDプロセスは低温で行えるため、熱に敏感な材料にも適用できます。
ALD装置の市場規模
ALD装置の市場は急速に成長しており、2023年には約39億ドルと評価されており、2028年には62億ドルに達すると予測されています。この成長率は年平均10%と見込まれており、特に半導体産業やエネルギー分野での需要が高まっています。
市場成長の要因
- 半導体産業の拡大: 新しいデバイス技術やモア・ザン・ムーア デバイスへの需要が高まり、ALD技術が重要視されています。
- 新材料開発: ナノテクノロジーや新しい材料科学の進展により、高性能な薄膜材料の需要が増加しています。
- 環境への配慮: 環境負荷を低減するための新しい製造プロセスとしてALDが注目されています。
地域別市場動向
アジア太平洋地域がALD装置市場で最も大きなシェアを占めており、日本、中国、韓国などが主要な市場となっています。これらの国々では半導体製造業者が多数存在し、高度な技術力を持つ企業が集まっています。
ALD装置の種類
ALD装置は主に以下の2つのタイプに分類されます。
サーマルALDの特徴
サーマルALDは、高温で安定した成膜プロセスを提供します。高品質な酸化膜や窒化膜など、多くの用途で使用されています。主に半導体デバイスやMEMS(微小電気機械システム)製造に適しています。
プラズマALDの利点
プラズマALDは低温でも成膜できるため、多様な基板材料への適用が可能です。また、高アスペクト比構造への被覆性も優れており、新しいデバイス技術への対応力があります。
ALD装置の主な用途
ALD装置は多岐にわたる用途がありますが、その中でも特に重要なのは以下の分野です。
- 半導体製造: トランジスタやメモリデバイスなど、高精度な薄膜形成が求められる領域です。特に3D NANDフラッシュメモリなどで広く採用されています。
- 光学コーティング: 高曲率レンズや光学フィルターなど、多様な光学デバイスへのコーティング技術として利用されています。
- エネルギー関連: 太陽電池や燃料電池など、エネルギー効率向上を目的とした薄膜技術としても活用されています。
ALD装置の機器構成
ALD装置は、主に以下のような機器から構成されています。
- リアクター(反応器): ALDプロセスが行われる空間であり、高真空または超高真空状態を維持するための装置です。リアクターは通常、金属や石英で作られており、気密性が高く、原子レベルでの堆積を可能にするよう設計されています。
- サブストレートホルダー(基板ホルダー): ALDプロセスにおける薄膜の堆積を受ける基板(サブストレート)を保持するための装置です。基板ホルダーは回転や傾斜機能を備えており、均一な薄膜の堆積を実現します。また、基板ホルダーは温度制御装置に接続されており、適切な温度環境を提供します。
- ガス供給装置: ALDプロセスで使用する反応ガスを供給するための装置です。ALDでは、1つの反応ステップごとに一定量のガスを導入します。ガス供給装置は、特定の反応ガスやプリカーサ(precursor)ガスを制御された量でリアクター内に供給します。ガス供給装置には、ガスシリンダーやマスフローコントローラー、ガス配管などが含まれます。
- 掃引(ピルスティック)装置: ALDプロセスにおいて、反応ガスをリアクター内の基板上に均一に供給するための装置です。掃引装置は、反応ガスを基板上にスキャンすることで、原子レベルの堆積を確保します。
- 測定・制御装置: ALDプロセス中の温度、圧力、流量、時間などのパラメータを監視・制御するための装置です。温度計、圧力計、流量計、制御ソフトウェアなどが含まれます。これにより、ALDプロセスの精密な制御と膜の堆積パラメータのモニタリングが可能となります。
- 排気装置: ALDプロセス中に発生する不要なガスや副産物を除去するための装置です。排気ポンプやガス洗浄装置が使用され、リアクター内の圧力とガス組成を制御します。
ALD装置の主な製造メーカー
ALD装置市場には多くのメーカーが存在し、それぞれ独自の技術と製品ラインアップを持っています。以下は主要メーカーです。
日本のメーカー
- 東京エレクトロン株式会社(TEL): 日本国内トップクラスの半導体製造装置メーカーであり、高いスループットと品質を誇るALD装置を提供しています。
- アルバック: Oxford Instruments社と提携し、プラズマテクノロジー部門の製品であるALD装置とALE装置を国内のお客様向けに販売を開始しました。この提携により、Oxford社の高度なプロセス技術とアルバックの国内サポート体制を組み合わせた包括的なソリューションを提供しています。
- サムコ:プラズマALD装置「AD-800LP」を開発・販売しています。この装置は、100~200mmウェハに対応した枚葉式で、SiCやGaNを材料とした次世代パワー半導体デバイスのゲート酸化膜形成の研究開発向けに設計されています。サムコ独自のトルネードICP方式を採用し、多様な成膜条件を可能にしています。
- 昭和真空: ALDシリーズとして原子層堆積装置を提供しています。この装置は、φ8インチ基板24枚の一括処理が可能で、基板回転機構を備えています。SiO2、TiO2、Al2O3などの膜種に対応し、高アスペクト比の基板への均一な成膜や低温成膜(RT~120℃)が可能という特長があります。
海外のメーカー
- LAM RESEARCH:半導体製造分野で先進的なALD(原子層堆積)装置を提供しています。LAM RESEARCHのALTUSシリーズとSTRIKERシリーズは、高速なALDサイクル、短いプロセス時間、高い生産性、低い保有コストを特徴とし、次世代デバイスの製造に貢献しています。
- Veeco Instruments:研究開発から量産まで幅広いニーズに対応するALD装置を提供しており、SavannahシリーズやFijiシリーズなどの研究開発向け装置、PhoenixシリーズやFirebirdシリーズなどの量産向け装置を展開しています。
- PICOSUN JAPAN株式会社: ALD専業メーカーとして知られ、高品質な成膜技術を持つ製品群を展開しています。研究開発から量産まで幅広く対応可能です。
- ASM International: 世界的に展開している企業で、多様なALDソリューションを提供しています。特にプラズマALD技術に強みがあります。
これら企業も市場で重要な役割を果たしており、それぞれ異なる技術革新によって競争力を維持しています。
参考サイト:
- ALD装置
- 原子層堆積装置 | ALD Series | 昭和真空株式会社
- ALD装置(原子層堆積装置)の世界市場規模は2028年に62億ドル、市場の平均年成長率は10.0%と予測【市場調査】リサーチステーション合同会社
- ALD装置のおすすめメーカーと価格相場
- ALD装置製造メーカー一覧!日本全国のALD装置開発メーカーを探してみた! – リサーチし隊|仕事にまつわるあらゆることを調査
- 製品情報 | ALD装置 | サムコ株式会社
- Atomic Layer Deposition (ALD) Equipment Market by Type, Application & Geography – 2028 | MarketsandMarkets
- ALD装置の製品一覧 | 製造業・建設業向けの製品検索サイト – イプロス
- Oxford社最先端ALD装置・ALE装置 販売開始しました | アルバック販売
- 製品情報ALD装置
- 原子層堆積装置│昭和真空社製(ALDシリーズ)製品紹介│三弘エマテック株式会社
- RGM2-302|Qulee RGM2シリーズ|CVD / ALD / Etchingプロセス|ガス分析計(プロセスガスモニタ)|製品情報|ULVAC SHOWCASE
- サムコ、SiC/GaNパワー半導体などの研究開発用プラズマALD装置を発表
- ALD装置Atomic Layer Deposition Equipment
- Oxford社とアルバック社
- Lam Research、高生産性を実現した成膜装置「VECTOR ALD Oxide」を発売
- Veeco|Veeco社の装置を輸入販売しています
- ALTUSシリーズ製品 – Lam Research
- 研究向けALD – Veeco
- Lam Research、高生産性を実現した成膜装置「VECTOR ALD Oxide」を発売
- ALDサービス – Veeco
- Atomic Layer Deposition (ALD) Archives – Lam Research
- 量産向けALD – Veeco
- STRIKERシリーズ製品 – Lam Research
- ALD概要 – Veeco
- 「原子層堆積(ALD)技術による薄膜形成」