業界の特徴と今後予想される状況
半導体・電子デバイス業界は、技術革新のスピードが速く、大規模な設備投資が必要な産業です。そのため、企業間の合併や買収を通じて、技術力の向上や生産能力の拡大を図る傾向があります。 特に近年は、AI、5G、自動車向け半導体などの成長分野での競争力強化を目的としたM&Aが活発化しています。 1. AIチップ関連のM&Aの増加: AI市場の急成長に伴い、AIチップ設計や製造能力を持つ企業の買収が増えると予想されます。 2. 自動車向け半導体企業の統合: 電気自動車や自動運転技術の普及に伴い、自動車向け半導体メーカー間の統合が進むと考えられます。 3. ファウンドリー事業の強化: 半導体製造能力の確保のため、ファウンドリー企業の買収や提携が増加する可能性があります。 4. 新興国企業の台頭: 中国をはじめとする新興国の半導体企業が、先進技術獲得のためにM&Aを積極的に行う可能性があります。 5. クロスボーダーM&Aの規制強化: 半導体産業の戦略的重要性から、各国政府による外国企業によるM&Aへの規制が厳しくなる傾向があります。 半導体・電子デバイス業界のM&Aは、技術革新と市場競争の激化を背景に今後も活発に行われると予想されます。 企業は戦略的なM&Aを通じて競争力を強化し、急速に変化する市場ニーズに対応していくことが求められるでしょう。国内メーカーのM&A
村田製作所
- 米国のレゾナント社の買収完了(2022.3.29) 村田製作所は、RF(高周波)フィルター設計の先進企業であるレゾナント社の買収を完了。1株あたり4.50ドルで全株式を取得し、総額約3億ドルを投じた。この買収により、村田製作所はレゾナント社のXBAR技術と自社のフィルター技術、プロセス技術、製造能力を組み合わせ、通信市場でのリーダーシップをさらに強化。高周波スペクトルの利用が進む中、高速通信規格の利点を最大限に活かすための信頼性の高い精密電子部品の提供を目指す。
- フランスのシリコンキャパシタメーカー IPDiAを買収(2016.10.12)村田製作所のオランダ子会社Murata Electronics Europe B.V.が、フランスのIPDiA社の株式を取得すると発表。IPDiA社は3Dシリコンキャパシタ技術のパイオニアで、医療、産業、通信、高信頼性アプリケーション向けの製品を提供。この買収により、村田製作所は高信頼性キャパシタのリーディングプロバイダーとしての地位を強化し、自動車および医療市場への展開を図る。
- フィンランドのMEMSメーカー VTI Technologies Oyの買収完了を発表(2012.1.12)村田製作所は、フィンランドのMEMS(微小電気機械システム)メーカーであるVTI Technologies社の買収を完了したと発表。VTI社の先進的な3D MEMSセンサー製品を自社の製品ラインに加えることで、急成長するMEMSセンサー市場での事業強化と拡大を目指す。この買収により、村田製作所は消費者向けアプリケーション市場での強みに加え、VTI社の自動車産業や医療分野での事業基盤を活用し、開発力と販売力を強化。
TDK
- センサーメーカーのインベンセンスを買収(2016年)TDKは2016年12月21日、米国のセンサーメーカーInvenSense社を約13億米ドル(約1,572億円)で買収することを発表しました。この買収により、TDKはセンサ・アクチュエータ事業の成長を促進し、センサソリューションにおけるグローバルプレイヤーとしての地位を強化します。InvenSense社の慣性、圧力、マイクロフォン、超音波センサ技術、およびソフトウェアソリューションを取得することで、TDKの製品・技術ポートフォリオがより完全なものとなります。この買収は、IoT、自動車、ICT分野におけるTDKの戦略的成長に重要な役割を果たすと期待されています。
日清紡ホールディングス
- 子会社の新日本無線、リコー電子デバイスを統合(2021.1.8)日清紡グループ傘下の新日本無線とリコー電子デバイスが2022年1月1日に経営統合し、新会社「日清紡マイクロデバイス」が発足しました。この統合により、オペアンプなどの信号処理用アナログICを得意とする新日本無線と、電源ICを得意とするリコー電子デバイスの技術が融合し、国内屈指の総合アナログ半導体メーカーが誕生しました。新会社は、豊富な製品ポートフォリオを活かし、「アナログソリューションプロバイダ」として事業規模の拡大を目指しています。2025年までに売上高1000億円以上、営業利益100億円以上の達成を目標としています。
ミネベアミツミ
- 滋賀セミコンダクター(旧オムロン8インチ半導体工場)の株式取得を発表(2021.10.1): ミネベアミツミの子会社ミツミ電機が、オムロンから滋賀セミコンダクター株式会社の全株式を取得し、MMIセミコンダクター株式会社に社名変更。この買収により、アナログICを生産可能な8インチ半導体前工程を獲得し、アナログ半導体事業の競争力強化を図る。100億円超の設備投資を行い、月産約2万枚の8インチウェハ生産体制を構築し、2025年度に約250億円の売上を目指す。
- エイブリックの株式取得を発表(2020.4.30): ミネベアミツミが、アナログ半導体メーカーであるエイブリック株式会社の全株式を取得し、子会社化を完了。エイブリックは低消費電流、低電圧動作、超小型パッケージ技術を活かした特徴ある製品群を有し、車載機器、医療機器、IoT・ウェアラブル機器市場で強みを持つ。この買収により、研究開発、生産技術、販路の相互活用などで多様なシナジー効果を期待。半導体事業の売上高1,000億円・営業利益率10%の目標達成に向けた基盤を構築。
- 日立パワーデバイスの株式取得を発表(2024.5.2)
ミネベアミツミが日立パワーデバイスの買収を完了し、社名をミネベアパワーデバイス株式会社に変更しました。この戦略的な動きにより、ミネベアミツミはパワー半導体の垂直統合型ビジネス展開が可能となり、技術力を強化しつつ、既存事業とのシナジー効果も期待できます。同社は、この取引を通じてパワー半導体市場でのリーダーシップを強化し、2030年度までにアナログ半導体事業で大幅な成長を目指しています。
ルネサスエレクトロニクス
- Renesas ElectronicsによるSteradian Semiconductorsの買収: 自動車産業向けのセンサーフュージョン技術開発を支援するため、Steradianのレーダー技術とRenesasのセンシングソリューションを統合。
- Renesas ElectronicsによるTransphormの買収完了: RenesasがGaN技術を持つ米Transphormの買収を完了。この買収により、RenesasはすぐにGaNベースのパワー製品と関連リファレンスデザインの提供を開始。ワイドバンドギャップ半導体製品の需要に応えるとともに、電気自動車向けのソリューション強化を図る。
- Reality AI社の買収を完了(2022.7.20): ルネサスは、AIと機械学習のソフトウェアツールを提供するReality AI社を買収。この買収により、ルネサスはエッジでのAI処理能力を強化し、産業および自動車分野向けのソリューションを拡充。センサーフュージョン、異常検知、予知保全などの分野での技術力向上を目指す。
- Celeno社を買収し、コネクティビティのポートフォリオを拡充(2021.10.28): ルネサスは、イスラエルのWi-Fi SoCおよびソフトウェアソリューションプロバイダーであるCeleno社を買収。この買収により、ルネサスはWi-Fi 6/6Eチップセットおよびソフトウェアソリューションを獲得し、コネクティビティポートフォリオを強化。IoTやスマートホーム市場での競争力向上を図る。
- Dialog社の買収を完了(2021.8.31): ルネサスは、英国のアナログ半導体会社Dialog Semiconductorの買収を完了。約48億ユーロ(約6,240億円)規模の大型買収により、ルネサスは低電力ミックスドシグナル製品、Wi-FiおよびBluetooth®コネクティビティ技術、バッテリー・パワーマネジメント技術を獲得。IoT、産業、自動車分野での高成長市場に向けた組み込みソリューションのグローバルリーダーシップを強化。
日本電産

M&Aの歴史 | ニデック株式会社
- 2019年10月:オムロンオートモーティブエレクトロニクス
- 2021年8月:三菱重工工作機械
- 2023年2月:PAMA社(イタリア)
- 2023年7月:ホーマ社(アメリカ)
- 2024年10月:Linear Transfer Automation Inc. 及び関連2社(カナダ)
海外メーカーのM&A
Analog Devices
- Analog DevicesによるMaxim Integratedの買収: 210億ドルの大型買収。1万人以上のエンジニア、62のデザインセンター、35カ国にわたる2万3000人の従業員を統合し、半導体特許の状況に大きな変化をもたらすと予想される。
Accenture
- AccentureによるExcelmax Technologiesの買収: ITサービス大手AccentureがベンガルールのチップデザインスタートアップExcelmax Technologiesを買収。半導体設計およびエンジニアリング能力の強化と、エッジコンピューティングソリューションの採用加速が目的。約450人の従業員がAccentureに加わる。
インテル
- Tower Semiconductorを買収(2022年2月)
- IntelによるTower Semiconductorの買収計画: 54億ドルでイスラエルのTower Semiconductorの買収を目指すが、中国当局の承認が得られず中止。Intelのファウンドリサービス拡大戦略の一環だった。
- FPGAメーカーのアルテラを買収(2015年6月)
インフィニオン
- 米国の車載半導体メーカー Cypress Semiconductorの買収を完了(2022年4月)インフィニオン テクノロジーズは、Cypress Semiconductorの買収を完了した。この買収により、インフィニオンは世界の半導体メーカー上位10社に名を連ねることとなり、車載半導体においてナンバーワンサプライヤーとなる。Cypressの製品ポートフォリオ(マイクロコントローラー、コネクティビティコンポーネント、ソフトウェアエコシステム、ハイパフォーマンスメモリー)がインフィニオンの既存製品を補完し、ADAS、自動運転、IoT、5Gモバイルインフラなどの高成長分野へのソリューション提供が強化される。
NXP
- AIチップ開発企業のKinaraを307M$で買収 NXPセミコンダクターズがAIチップスタートアップのKinaraを買収した。この買収により、NXPはエッジAI処理能力を強化し、自動車や産業用IoT市場での競争力を高めることが期待される。Kinaraが開発したNPUの低消費電力で高性能なAIアクセラレータ技術が、NXPの既存のポートフォリオを補完すると見られる。
オン・セミコンダクター
- オンセミ、GT Advanced Technologies 社の買収を完了オンセミは、シリコンカーバイド(SiC)の製造企業であるGT Advanced Technologies(GTAT)の買収を完了した。この買収により、オンセミはSiCの供給確保と拡大能力を強化し、電気自動車、EV充電器、エネルギーインフラなどの持続可能なエコシステムの急速な成長を支えるSiCデバイスの供給を保証する。GTATの結晶成長に関する豊富な経験や技術力を活用し、SiCの開発を加速させる。
クアルコム
- 米クアルコム、5G普及加速へスタートアップ買収(2022年7月)米クアルコムは、ネットワークの運用自動化ソフトウエアを手掛けるスタートアップのセルワイズ(Cellwize)を3億5000万ドル(約476億円)で買収した。
MACOM
- MACOMによるOMMIC SASの買収: 4170万ドルで仏OMMIC SASを買収。MACOMはこれをヨーロッパ半導体センターの基盤とし、高周波ガリウムヒ素(GaAs)およびガリウムナイトライド(GaN)MMICの開発を強化。
- MACOMによるENGIN-ICの買収: MACOMは、GaNモノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)に特化したファブレス半導体企業ENGIN-ICを買収。60以上の標準MMICと多数のカスタムソリューションを含むポートフォリオにより、MACOMの防衛市場での存在感を強化。広帯域・高効率MMIC設計能力の獲得が目的。
Marvell
- Marvell TechnologyによるInphiの買収: 100億ドルで買収を完了。データセンターや5Gネットワークインフラストラクチャ市場でのMarvellの地位強化が目的。
ブロードコム
- Broadcomによるヴイエムウェア(VMware)の買収(2022年5月): 610億ドル規模の大型買収。BroadcomはVMwareのクラウドコンピューティングと仮想化技術を活用し、統合されたハードウェア・ソフトウェアソリューションの提供を目指す。
STマイクロエレクトロニクス
- フランスのGaNメーカー Exaganを買収(2020.3.5)STマイクロエレクトロニクスは、GaN(窒化ガリウム)パワー半導体を手掛けるフランスのExaganを買収することで合意した。Exaganは、急速充電アプリケーション向けのGaN SiP(System in Package)ソリューションに関する注目すべき特許ポートフォリオとノウハウを有している。この買収により、STは新興のGaNパワー市場での地位と製品ポートフォリオを強化し、高効率化と小型化を求める顧客ニーズに応える。
Infosys
- InfosysによるInSemiの買収: InfosysがInSemiを280クロールルピー(約35億円)で買収すると発表。半導体設計と組込みサービスプロバイダーであるInSemiの獲得により、InfosysのエンジニアリングR&D能力を強化し、チップからクラウドまでの戦略を加速させる狙い。