イオン注入装置は、イオン・インプランテーション(インプラ)とも呼ばれ、現代の半導体製造において欠かせない先端技術です。本記事では、イオン注入装置の基本的な仕組みから、市場規模、種類と用途、そして主要な製造メーカーについて記載します。半導体技術に興味がある方はもちろん、最新のテクノロジートレンドを追いかけたい方にも必見の内容です。イオン注入装置が半導体産業や私たちの日常生活にどのような影響を与えているのか、一緒に探っていきましょう。
イオン注入装置に関する最新ニュース
イオン注入装置の最先端技術は、半導体製造プロセスの進化に伴い、急速に発展しています。特に、最新のデバイス製造に対応するため、以下の革新的な技術が注目されています。
以下に、イオン注入装置の先端技術に関する最新ニュースを3つ厳選して紹介します:
- SHX-Ⅲ / HC:最先端の超低エネルギーイオン注入を実現する高電流イオン注入装置
住友重機械イオンテクノロジーが開発した世界初のビームスキャンと機械スキャンを組み合わせた装置。超低エネルギーでの高精度注入と高生産性を実現し、最小0.2 keVから最大60 keVのエネルギー範囲をカバー。 - アクセリス、2024年イオン注入技術国際会議への協賛と参加を発表
アクセリス・テクノロジーズが2024年9月に富山で開催されるIIT 2024に協賛。高エネルギーイオン注入器用の新しいデュアルカソードイオン源など、9つの先端技術トピックを発表予定。 - 低エネルギーイオン注入が2D横型p-n接合の実現を可能に
武漢大学の研究チームが、2D材料への低エネルギーイオン注入技術を開発。窒素イオンの注入量を制御することで、WS2の導電性タイプを精密に調整し、横型p-n接合の作製に成功。
イオン注入装置とは?
半導体製造の必須プロセス
イオン注入装置は、半導体製造において不可欠な装置です。この装置は、半導体素子の電気的特性を精密に制御するために使用されます。具体的には、シリコンウェーハにボロンや砒素などのイオンを注入し、半導体の導電性を調整します[2]。この過程は、半導体デバイスの性能と機能を決定づける重要な役割を果たしています。
イオン注入の仕組み
イオン注入の仕組みは、高度な物理学と工学の原理に基づいています。まず、注入したい元素をイオン化し、高電圧で加速します。次に、質量分析器で不要なイオンを除去し、加速管や偏向器を使ってイオンビームの精度を高めます。最後に、Qレンズでイオンビームを絞り、走査器で方向を制御してウエハーに照射します[1]。この精密な制御により、半導体の特性を微細にカスタマイズすることが可能となります。
イオン注入の重要性
イオン注入は、現代の電子機器に不可欠な技術です。この技術なしでは、スマートフォン、コンピューター、電気自動車などの高性能デバイスは存在し得ません。イオン注入によって、トランジスタやメモリーチップの性能が大幅に向上し、より小型で高速、低消費電力の電子機器の開発が可能となっています[3]。
イオン注入装置の市場規模
急成長する市場
イオン注入装置市場は急速に拡大しています。2023年の市場規模は約2,180百万米ドルに達し、2036年までには約3,580百万米ドルに成長すると予測されています。この成長率は年平均5.2%(CAGR)に相当し、半導体産業の発展と密接に関連しています[4]。
地域別の市場動向
アジア太平洋地域が市場の約82%を占め、最大の成長地域となっています。特に日本では、材料科学と半導体技術への研究開発投資が活発で、イノベーションを促進しています。日本の民間部門は、年間約90億~180億米ドルを基礎研究や新製品開発に投資しており、これがイオン注入装置市場の成長を後押ししています[4]。
市場成長の要因
市場成長の主な要因は、電子機器の需要増加です。スマートフォン、タブレット、ラップトップなどの家電市場の急成長が、イオン注入装置の需要を押し上げています。また、AI、5G通信、自動運転車などの先端技術分野での高性能チップの需要も、市場拡大に寄与しています[5]。
イオン注入装置の種類
高電流イオン注入装置
高電流イオン注入装置は、高濃度のイオン注入が必要な半導体製造に使用されます。この装置は、数~数十ミリアンペアの高電流イオンビームを発生させ、エネルギーは数~200キロ電子ボルト程度です。ドーズ量は平方メートル当たり10^18~10^20と非常に高く、主に半導体の高濃度ドーピングに用いられます[6]。
中電流イオン注入装置
中電流イオン注入装置は、低・中程度のイオン注入を精密に行うために使用されます。イオンビームの電流は数~1マイクロアンペア、エネルギーは数十~数百キロ電子ボルトの範囲です。ドーズ量は平方メートル当たり10^15~10^18程度で、トランジスタやダイオードなどのディスクリートデバイス製造に広く使用されています[6]。
高エネルギーイオン注入装置
高エネルギーイオン注入装置は、金属の深い領域へのイオン注入に使用されます。この装置は大規模な加速機構を備え、イオンビームの電流は数~数百マイクロアンペア、エネルギーは最大メガ電子ボルトに達します。SOI技術や高電圧パワーデバイスの製造など、深層へのドーピングが必要な場面で活躍します[6]。
イオン注入装置の主な用途
半導体デバイス製造
イオン注入装置の最も一般的な用途は、半導体デバイスの製造です。マイクロプロセッサー、メモリーチップ、センサーなどの高性能半導体デバイスの製造において、材料の電気的特性を精密かつ制御された形で変更するために不可欠です。特に、最先端のナノスケールデバイスの製造では、イオン注入の精度と制御性が極めて重要となっています[5]。
パワーデバイス製造
高エネルギーイオン注入装置は、スマートフォンやパソコンなどに使用されるパワーデバイスの製造に重要な役割を果たしています。高電圧を扱うパワーデバイスでは、デバイスの深部にドーピングを行う必要があり、高エネルギーイオン注入装置が使用されます。これにより、高効率で信頼性の高いパワー半導体デバイスの製造が可能となっています[6]。
医療機器製造
イオン注入装置は、ペースメーカー、除細動器、神経刺激装置などの埋め込み型医療機器の製造にも使用されています。これらの機器に対する需要の高まりが、ヘルスケア分野におけるイオン注入装置市場の成長を牽引しています。医療機器の小型化と高性能化に伴い、イオン注入技術の重要性はますます高まっています[5]。
イオン注入装置の主な製造メーカー
アプライドマテリアルズ(Applied Materials)
米国に本社を置くアプライドマテリアルズは、半導体製造装置メーカーとして知られていますが、イオン注入装置も製造・販売しています。同社は高電流、中電流、高エネルギーイオン注入装置に加え、次世代技術であるプラズマドーピングを利用する装置も提供しています。幅広いラインナップと革新的な技術で、世界中の半導体メーカーにソリューションを提供しています[6]。
住友重機械イオンテクノロジー
住友重機械イオンテクノロジーは、日本国内の半導体製造用イオン注入装置のトップメーカーです。最先端の半導体デバイス製造に対応した高電流、中電流、高エネルギーのイオン注入装置を製造・販売しています。特に、大量生産時に重宝する高電流イオン注入装置では、バッチ式と枚葉式の両方をラインナップしており、高精度かつ高品質で生産性の高いイオン注入技術を提供しています[7]。
その他の主要メーカー
世界のイオン注入装置市場には、他にも重要なプレーヤーが存在します。Axcelis Technologies、Ion Beam Services S.A.、Intevac Inc.、Kingstone Semiconductor Joint Stock Company Ltd.、ULVAC Technologies Inc.、Nissin Ion Equipment Co.Ltd.、High Voltage Engineering Europa B.V.、Idonus sarlなどが挙げられます。これらの企業は、独自の技術や特徴的な製品ラインナップを持ち、グローバルな半導体産業に貢献しています[5]。
参考サイト:
[1] イオン注入装置とは?特徴や原理・新たな技術方法について解説 | オンライン展示会プラットフォームevort(エボルト)
[2] イオン注入 | 半導体製造装置 | SCREEN半導体ソリューションズ株式会社
[3] 半導体製造用イオン注入装置 | 製品・サービス | 日新電機株式会社
[4] イオン注入装置市場 : 世界の市場規模と需要、シェア、トップ傾向とメーカー ーレポートの洞察と将来予測調査
[5] イオン注入装置の世界市場調査レポート:産業分析、規模、シェア、成長、動向、2023年から2030年までの予測
[6] イオン注入装置とは? 設備投資のポイント・おすすめメーカーをご紹介
[7] イオン注入装置の市場動向と主要メーカー | リージョナルキャリア