積層セラミックコンデンサ(MLCC)は、現代のエレクトロニクス産業において不可欠な電子部品です。本記事では、MLCCの基本から最新の市場動向、技術的課題まで、幅広くかつ深く解説します。半導体業界のプロフェッショナルから初心者まで、MLCCについての理解を深めたい方必見の内容となっています。
MLCC関連の最新ニュース
- TDK、高耐圧MLCCの量産開始
TDKは2024年12月から、高耐圧と高容量を両立した新型MLCCの量産を開始しました。従来品比1.25倍の電圧に耐えられる設計により、主に車載用途での採用を見込んでいます。月産100万個からスタートし、想定価格は95~110円程度となっています。
- 世界MLCC市場、2029年に61.16億ドル規模へ
市場調査会社Mordor Intelligenceの報告によると、世界のMLCC市場は2024年の23.03億ドルから、2029年には61.16億ドルに成長すると予測されています。年平均成長率(CAGR)は21.57%と、非常に高い成長が見込まれています。
- 村田製作所、世界最小MLCCを開発
MLCCのトップメーカーである村田製作所が、体積を75%削減した世界最小のMLCCを開発したことが報じられました。この技術革新により、さらなる電子機器の小型化・高性能化が期待されます。
MLCCとは?
MLCCの基本構造
MLCC(Multi-Layer Ceramic Capacitor)は、誘電体であるセラミック材料と金属電極を交互に積層した構造を持つコンデンサです。この積層構造により、小型でありながら大きな静電容量を実現しています。基本的な静電容量の式は C = ε * (A / d) で表され、εは誘電率、Aは電極面積、dは誘電体の厚さを示します。
MLCCの動作原理
MLCCは、両端の電極に電圧を加えると内部の誘電体で分極が起こり、電荷を蓄えます。この特性を利用して、電圧の安定化、ノイズの除去、信号のフィルタリングなどの機能を果たします。高周波特性に優れ、低ESR(等価直列抵抗)と低インダクタンスを実現できるため、高速デジタル回路やRF回路に適しています。
MLCCの特徴と利点
MLCCは、他のタイプのコンデンサと比較して多くの利点があります。小型・軽量であり、高い信頼性と安定性を持ち、広い温度範囲で使用可能です。また、自己回復性能を持つため、一時的な過電圧にも強いという特徴があります。これらの特性により、MLCCは現代のエレクトロニクス製品に不可欠な部品となっています。
MLCCの市場規模
世界市場の現状
2024年の世界MLCC市場規模は約23.03億ドルと推定されています。この市場は急速に成長しており、2029年までに61.16億ドルに達すると予測されています。年平均成長率(CAGR)は21.57%と、非常に高い成長率を示しています。
成長要因
MLCC市場の成長を牽引する主な要因には、スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスの普及、自動車の電動化・自動運転化、5G通信の展開、IoT機器の増加などが挙げられます。特に、電気自動車(EV)や自動運転技術の進展により、車載用MLCCの需要が急増しています。
地域別市場動向
MLCC市場は、アジア太平洋地域が最大のシェアを占めています。特に中国、日本、韓国、台湾などの東アジア諸国が主要な生産拠点となっています。北米や欧州も重要な市場ですが、製造拠点としてはアジアに比べて小規模です。今後は、インドやベトナムなどの新興国市場も成長が期待されています。
MLCCの主な用途
モバイルデバイス
スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスには、1台あたり約1000個のMLCCが使用されています。主な用途としては、電源回路の安定化、RF回路でのインピーダンスマッチング、タッチスクリーンの静電容量センサーなどが挙げられます。MLCCの小型化・高性能化により、モバイルデバイスの薄型化や高機能化が実現されています。
自動車
最新の電気自動車では、1台あたり約10,000個ものMLCCが使用されています。主な用途には、エンジン制御ユニット(ECU)、各種センサー回路、車載インフォテインメントシステムなどがあります。自動車の電動化・自動運転化が進むにつれ、MLCCの需要はさらに増加すると予想されています。高温・高湿度・振動など過酷な環境下でも安定して動作する高信頼性MLCCが求められています。
産業機器・医療機器
産業機器分野では、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)、インバーター回路、電力変換装置などにMLCCが使用されています。医療機器分野では、MRIやCTスキャナーの高周波回路、ペースメーカーなどの小型医療デバイスにMLCCが不可欠です。これらの分野では、高い信頼性と長期安定性が要求されるため、高品質なMLCCが使用されています。
MLCCの主な種類
温度特性による分類
MLCCは温度特性によって、Class I、Class II、Class IIIの3つに分類されます。Class I(C0G/NP0など)は温度安定性が高く、精密な回路に使用されます。Class II(X7R, X5Rなど)は大容量ですが温度による容量変化があります。Class III(Y5V, Z5Uなど)はさらに大容量ですが、温度特性は劣ります。用途に応じて適切なタイプを選択することが重要です。
容量による分類
MLCCは静電容量によっても分類されます。一般的に、小容量(1pF~1nF)、中容量(1nF~1μF)、大容量(1μF以上)の3つに分けられます。近年の技術進歩により、同じサイズでより大きな容量を実現するMLCCが開発されています。例えば、村田製作所は1.6×0.8 mmサイズで100μFという世界最大の静電容量を達成しています。
電圧定格による分類
MLCCは使用される電圧範囲によっても分類されます。低電圧(6.3V~100V)、中電圧(100V~1000V)、高電圧(1000V以上)の3つに大別されます。最近では、TDKが開発した新型MLCCのように、従来品比1.25倍の電圧に耐えられる高耐圧製品も登場しています。特に自動車や産業機器向けに、高電圧・大容量MLCCの需要が増加しています。
MLCCの技術的な課題
小型化と大容量化の両立
MLCCの小型化と大容量化は、エレクトロニクス産業の要求に応えるための重要な課題です。これを実現するためには、誘電体材料の高誘電率化、誘電体層の薄層化、内部電極の高アスペクト比化などの技術革新が必要です。例えば、村田製作所が開発した世界最小MLCCは、これらの技術を駆使して体積を75%削減しつつ、必要な容量を確保しています。
信頼性と寿命の向上
MLCCの信頼性向上は、特に自動車や産業機器、医療機器などの分野で重要な課題です。高温・高湿度・振動などの過酷な環境下でも安定して動作し、長期間にわたって性能を維持する必要があります。この課題に対しては、材料技術の向上、製造プロセスの最適化、品質管理の強化などが行われています。例えば、TDKの新型高耐圧MLCCは、内部設計の見直しにより従来品比1.25倍の電圧に耐えられるようになりました。
環境負荷の低減
MLCCの製造過程における環境負荷の低減も重要な課題です。特に、希少金属の使用量削減、製造時のエネルギー消費削減、有害物質の使用抑制などが求められています。これに対し、各メーカーは環境に配慮した材料開発や製造プロセスの改善に取り組んでいます。例えば、村田製作所は樹脂多層基板に100%再生銅箔を使用するなど、環境負荷低減に向けた取り組みを進めています。
MLCCのトップシェアメーカー
村田製作所
村田製作所は、MLCC市場において世界シェア約40%を誇る最大手メーカーです。高品質・高性能なMLCCを提供し、スマートフォンから自動車、産業機器まで幅広い分野で採用されています。最近では、世界最小のMLCCを開発するなど、技術革新でも業界をリードしています。特に自動車市場では約50%という高いシェアを持っており、今後の成長が期待されています。
太陽誘電
日本の太陽誘電は、高い耐圧性と信頼性を持つMLCCで知られています。特に、自動車や産業機器向けの高品質MLCCに強みを持っており、厳しい品質要求に応える製品を提供しています。最近では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)セルの開発にも成功するなど、新たな分野への展開も進めています。
TDK
TDK株式会社は、MLCCの主要メーカーの一つです。TDKのMLCCは、高品質、高信頼性、エレクトロニクス業界における幅広い用途で知られています。最近では、車載用100V品で業界最大の静電容量を持つMLCCの開発や、北上工場での新たな製造棟建設など、積極的な投資と技術革新を行っています。TDKは、グローバルな事業展開と研究開発に重点を置き、進化する市場のニーズに応える革新的なソリューションを提供し続けています。
京セラ
京セラは、MLCCの主要メーカーの一つで、世界シェア約6%を占めています。同社は自動車、電気通信、家電、産業用アプリケーションなど様々な分野向けにMLCCを提供しています。2020年には約1000億円を投じて米KYOCERA AVXコンポーネンツを完全子会社化し、MLCC事業の強化を図っています。
サムスン電機(SEMCO)
韓国のサムスン電機(SEMCO)は、村田製作所に次ぐ世界第2位のMLCCメーカーです。小型・軽量かつ高性能なMLCCを提供しており、特にスマートフォンなどのモバイルデバイス向けで強みを持っています。サムスングループのバーティカル統合を活かし、安定した供給体制を構築しています。
Yageo
Yageoは、世界第3位のMLCCメーカーで、幅広い製品ポートフォリオとグローバルな生産・販売網を持っています。自動車・産業機器向けの高信頼性MLCCや、小型化に対応した製品の開発に注力しています。
参考サイト
- 電圧耐性向上…TDK、「MLCC」月産100万個
- ODMの材料の準備が減速しています!MLCCの出荷は第4四半期に3.6%減少する可能性がありますが、AI需要は増加し続けています
- MLCC bounce back: Murata and industry expect renewed Growth – Astute Group
- 日本MLCC 市場規模 | Mordor Intelligence
- MLCC Market Size | Mordor Intelligence
- MLCCの需給動向
- コンデンサ | 村田製作所
- MLCCの製造工程と特徴
- MLCC(積層セラミックコンデンサー)とは?
- MLCCの需要動向と市場予測