MEMSセンサは、IoT、自動運転、ウェアラブルデバイスなど、次世代テクノロジーの中核を担う重要なデバイスです。本記事では、MEMSセンサの基本から最新の市場動向、主要な用途、技術的課題まで、包括的に解説します。2025年に向けた半導体業界の展望を踏まえ、MEMSセンサ市場の成長戦略を探ります。
MEMSセンサ関連の最新ニュース
- 2025年のMEMS市場規模、約2兆円に拡大予測
矢野経済研究所の調査によると、ファウンドリーを除いたMEMSデバイスの世界市場規模は、2025年に約2兆円に達する見通しです。高周波デバイスが全体の23.9%を占め、圧力センサーが13.9%、小型マイクロフォンが10.5%と続きます。2020年から2025年までのCAGR(年平均成長率)は10.2%と予測されており、MEMSデバイス市場の着実な成長が期待されています。
- ウェアラブルMEMSセンサー市場、2032年まで年率8.1%で成長
ウェアラブルMEMSセンサー市場は、2025年から2032年にかけて、8.1%の複合年間成長率で成長すると予測されています。ウェアラブル技術の進化と健康管理への関心の高まりが、この成長を牽引すると考えられます。
MEMSセンサとは?
MEMSの定義と基本構造
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)は、微小な電子機械システムを意味し、数ミリメートル単位の全長で、使用する部品のサイズがμmクラスの非常に小さなデバイスです。シリコン基板やガラス基板、有機材料などに、センサーやアクチュエータ、電子回路などを搭載した構造となっています。MEMSは電気信号、エネルギー、機械変位、物理量、光信号、化学量など、多種多様な要素の入出力が可能な特徴を持っています。
MEMSと半導体の違い
MEMSの製造には半導体集積回路の製作技術が活用されますが、従来の回路のような平面的な積層構造とは異なり、ある部分が基板から分離しているような立体構造を備えています。この立体的で可動部を有する構造が、一般の半導体素子とMEMSの大きな違いとなっています。
MEMSは物理現象を電気信号に変換するセンサー機能と、電気信号を与えることで可動構造体を動かすアクチュエーター機能の双方を実現できる点で、応用範囲が非常に広いデバイスです。
MEMSセンサの特徴と利点
MEMSセンサは、小型・高性能という特徴を有しており、特に携帯機器や複雑な機械の内部利用に適しています。
例えば、スマートフォンでは特定の電波を選択するSAW/BAWフィルター、加速度センサー、ジャイロセンサー、マイクロフォン、気圧センサーなど、複数のMEMSが利用されています。
自動車産業においても、エアバッグの展開タイミンを制御する加速度センサーや、車両の安定性を向上させるステアリング角センサー、タイヤ圧センサーなど、多くのMEMSセンサが活用されています
MEMSセンサの小型化・高性能化により、IoTデバイスやウェアラブル機器の進化が加速しています。
MEMSセンサの市場動向
2025年の市場規模予測
MEMSセンサー市場は、2024年に171億8,000万米ドルに達し、9.17%のCAGRで成長し、2029年までに266億5,000万米ドルに達すると予想されています。
特に、アジア太平洋地域が最も広範な市場になると予測されており、インド、日本、中国などの経済成長と、民生用電子機器と自動車セグメントの拡大が要因とされています。
シスコの予測によると、2025年にはアジア太平洋地域で約3億1,100万台、北米で約4億3,900万台のウェアラブルデバイスが販売される見込みであり、これがMEMSセンサーの需要をさらに押し上げると考えられています。
成長を牽引する産業分野
MEMSセンサー市場の成長を牽引する主要な産業分野として、自動車、スマートフォン、ウェアラブルデバイス、IoT機器が挙げられます。
自動車産業では、自動運転技術の進展に伴い、3次元レーザーレーダー「LiDAR」などの高度なセンシング技術の需要が高まっています。
また、スマートフォン市場では、高性能カメラや動作認識機能の進化に伴い、より精密なMEMSセンサーの需要が増加しています。
ウェアラブルデバイスやIoT機器の普及も、MEMSセンサー市場の拡大に大きく寄与しています。
地域別の市場動向
アジア太平洋地域、特に中国が、MEMSセンサー市場で最も急速な成長を示しています。中国では、自動車市場と消費者市場の上昇、スマートフォン、タブレット、ドローン、その他のマイクロシステムおよび半導体対応製品の輸出により、ここ数年でMEMSセンサの使用量が大幅に増加しています。
加速度計、ジャイロスコープ、圧力センサー、無線周波数(RF)フィルターなど複数のMEMSセンサーが、製品組み立てのために中国に輸入されています。
北米と欧州も、自動車産業やIoT分野の発展により、安定した市場成長を維持しています。
MEMSセンサの主な用途
スマートフォンと携帯デバイス
スマートフォンは、MEMSセンサーの最大の市場の一つです。スマートフォンには、加速度センサー、ジャイロセンサー、磁気センサー、近接センサー、環境センサー(温度、湿度、気圧)など、多数のMEMSセンサーが搭載されています。
これらのセンサーにより、画面の自動回転、ステップカウント、ナビゲーション、環境モニタリングなどの機能が実現されています。また、BAW(Bulk Acoustic Wave)フィルターなどのRFMEMSデバイスは、5G通信の高周波数帯域での信号処理に不可欠です。
タブレットやウェアラブルデバイスなど、他の携帯デバイスにも同様のMEMSセンサーが採用されており、ユーザーエクスペリエンスの向上に貢献しています。
自動車産業
自動車産業は、MEMSセンサーの重要な応用分野です。エアバッグシステムの加速度センサー、エンジン制御用の圧力センサー、車両安定性制御システム(ESC)用のジャイロセンサー、タイヤ空気圧モニタリングシステム(TPMS)用の圧力センサーなど、多様なMEMSセンサーが使用されています。
さらに、自動運転技術の発展に伴い、LiDAR(Light Detection and Ranging)システムやADAS(Advanced Driver-Assistance Systems)用の高性能MEMSセンサーの需要が急増しています。
これらのセンサーは、車両の周囲環境を正確に把握し、安全性と快適性を向上させる上で重要な役割を果たしています。
医療・ヘルスケア分野
医療・ヘルスケア分野でも、MEMSセンサーの活用が進んでいます。血圧計、血糖値モニター、呼吸器、ペースメーカーなどの医療機器にMEMSセンサーが組み込まれ、患者のモニタリングや治療の精度向上に貢献しています。
また、ウェアラブルヘルスケアデバイスにも多数のMEMSセンサーが使用されており、心拍数、血中酸素濃度、体温などの生体情報をリアルタイムで測定し、健康管理をサポートしています。
さらに、MEMSマイクロ流体デバイスは、迅速かつ正確な医療診断や創薬研究に活用されており、個別化医療の実現に向けた重要な技術となっています。
MEMSセンサの主な種類
加速度センサーとジャイロスコープ
加速度センサーは、デバイスに加わる加速度を検出するMEMSセンサーです。主に、スマートフォンの画面回転機能やステップカウンター、自動車のエアバッグシステムなどに使用されています。内部構造は、おもりを梁などで支える形になっており、デバイスに生じた加速度によっておもりの支持構造に変化が生じ、その変化を電気信号として検出します。
ジャイロスコープは、回転速度を測定するMEMSセンサーです。スマートフォンやタブレットの画面の向きの検出、カーナビゲーションシステムでの車体の向きの把握、車体安定システムなどに使用されています。MEMSジャイロスコープは、角度運動を検出する小型の一体型センサーで、民生用電子機器から自動車、航空宇宙システムまで幅広い用途で使用されています。
圧力センサーと磁気センサー
圧力センサーは、受圧部のシリコンダイアフラムに生じた力を電気信号に変換し、圧力を計測するMEMSセンサーです。血圧計、気圧計、ガス圧計など、圧力を測定する用途で広く使用されています。検出様式によって、ピエゾ式、静電容量式、振動式などに分類されます。
磁気センサーは、磁場の強さや方向を検出するMEMSセンサーです。電子コンパスやモーション検出、非接触スイッチなどに使用されています。MEMSテクノロジーを用いた磁気センサーは、従来の磁気センサーよりも小型化、高感度化が可能となっています。
光学MEMSと環境センサー
光学MEMSの代表例として、デジタルミラーデバイス(DMD)があります。DMDは、多数の微小なミラーで構成されており、各ミラーは10マイクロメートル程度の極小サイズです。プロジェクターや光造形式3Dプリンター、半導体露光機などに使用されており、高精細な画像投影や微細加工を可能にしています。
環境センサーには、温度センサー、湿度センサー、気圧センサーなどが含まれます。これらのセンサーは、スマートフォンやウェアラブルデバイス、スマートホーム機器などに組み込まれ、周囲の環境条件をモニタリングします。MEMSテクノロジーにより、これらのセンサーの小型化、低消費電力化、高精度化が実現されています。
MEMSセンサの技術的な課題
小型化と高性能化の両立
MEMSセンサーの小型化と高性能化の両立は、常に技術的な課題となっています。デバイスの小型化に伴い、センサーの感度や精度を維持または向上させることが難しくなります。
例えば、加速度センサーやジャイロスコープでは、可動部の質量が小さくなることで、ノイズの影響が大きくなる傾向があります。
この課題に対して、新しい材料の採用や製造プロセスの改善、信号処理技術の高度化などが進められています。例えば、シリコンナノワイヤーを用いた超高感度センサーの開発や、AIを活用したノイズ除去技術の導入などが研究されています。
また、3D MEMSと呼ばれる立体構造を活用することで、限られた面積でより高い性能を実現する試みも行われています。
パッケージングと信頼性の向上
MEMSセンサーのパッケージングは、デバイスの性能と信頼性に直接影響を与える重要な要素です。特に、環境センサーや圧力センサーなど、外部環境と直接接触する必要があるセンサーでは、適切なパッケージング技術が不可欠です。課題としては、気密性の確保、熱応力の管理、異種材料間の接合技術などが挙げられます。
最近では、ウェハーレベルパッケージング(WLP)技術の進歩により、MEMSセンサーの小型化と信頼性向上の両立が進んでいます。また、TSV(Through-Silicon Via)技術を用いた3D実装も、高密度実装と性能向上に貢献しています。
消費電力の低減とエネルギーハーベスティング
IoTデバイスやウェアラブル機器の普及に伴い、MEMSセンサーの低消費電力化がますます重要になっています。特に、バッテリー駆動のデバイスでは、センサーの消費電力がデバイスの稼働時間に直接影響します。この課題に対して、低電圧動作が可能なMEMSセンサーの開発や、間欠動作制御の最適化などが進められています。
さらに、エネルギーハーベスティング技術との組み合わせも注目されています。例えば、圧電MEMSデバイスを用いて振動エネルギーを電力に変換し、センサー自体の動作電力を賄う研究が進められています。また、熱電効果を利用したMEMSエネルギーハーベスターの開発も行われており、自立型センサーノードの実現が期待されています。
MEMSセンサのトップシェアメーカー
Bosch Sensortec GmbH
Bosch Sensortecは、MEMSセンサー市場でトップシェアを誇る企業の一つです。特に、自動車向けMEMSセンサーで強みを持っており、加速度センサー、ジャイロセンサー、圧力センサーなど、幅広い製品ラインナップを展開しています。同社の最新製品には、AIを搭載した環境センサーBME688や、超小型の6軸慣性測定ユニット(IMU)BMI270などがあります。Bosch Sensortecは、Industry 4.0やIoTの進展に伴い、産業用MEMSセンサーの分野でも積極的な展開を行っています。
STMicroelectronics N.V.
STMicroelectronicsは、幅広いMEMSセンサー製品を提供する大手半導体メーカーです。同社は、スマートフォン向けMEMSマイクロフォンや加速度センサー、ジャイロスコープなどで高いシェアを持っています。最近では、ToF(Time of Flight)センサーやLiDARセンサーなど、先進運転支援システム(ADAS)向けの製品開発にも注力しています。STMicroelectronicsの強みは、MEMSセンサーと信号処理用マイコンを組み合わせたトータルソリューションの提供にあります。
TDK InvenSense
TDK InvenSenseは、モーションセンシング技術に強みを持つMEMSセンサーメーカーです。同社は2017年にTDKに買収され、音響MEMSセンサーや慣性センサーの分野で高いシェアを誇っています。特に、スマートフォンやウェアラブルデバイス向けの6軸および9軸モーションセンサーで知られています。最近では、超音波指紋センサーや高精度MEMSマイクロフォンなど、新しい製品カテゴリーの開発も進めています。TDK InvenSenseは、AIやエッジコンピューティングとの統合を通じて、次世代のセンシングソリューションの開発に取り組んでいます。
まとめ
MEMSセンサーは、IoT、自動運転、ウェアラブルデバイスなど、次世代テクノロジーの基盤となる重要なデバイスです。市場は着実に成長を続けており、2025年には約2兆円規模に達すると予測されています。主要な用途として、スマートフォン、自動車、医療・ヘルスケア分野が挙げられ、加速度センサー、ジャイロスコープ、圧力センサーなど、多様な種類のMEMSセンサーが開発されています。
技術的な課題としては、小型化と高性能化の両立、パッケージングと信頼性の向上、消費電力の低減などがありますが、新材料の採用や製造プロセスの改善、AIとの統合などにより、これらの課題解決が進められています。
市場をリードする企業として、Bosch Sensortec、STMicroelectronics、TDK InvenSenseなどが挙げられ、これらの企業は革新的な製品開発と幅広いソリューション提供により、競争力を維持しています。
今後、5G通信の普及やAIの進化、自動運転技術の発展などに伴い、MEMSセンサーの重要性はさらに高まると予想されます。センサー技術の進化が、私たちの生活をより便利で安全なものにしていくことが期待されます。
参考サイト
- 2025年のMEMSデバイス世界市場規模、約2兆円に拡大の見通し
- MEMSセンサー市場 | 2024年~2029年の成長、トレンド、予測
- MEMS市場調査の必要性と活用方法
- MEMSセンサー市場の主要企業
- MEMSとは? | シチズン時計株式会社
- MEMS & SENSORS NETWORK SUMMIT 2025
- MEMSとは?仕組みや種類、活用事例を解説
- MEMSの基礎知識
- MEMSセンサー市場、2030年に約4兆円規模に拡大
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