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ハードディスクドライブ(HDD)~SSDとの共存/ニアラインストレージでAI・ビッグデータ時代を支える技術

デバイス

ハードディスクドライブ(HDD)は、デジタルデータの長期保存に欠かせない記憶装置です。本記事では、HDDの最新技術動向、市場規模、主要メーカーなどを詳しく解説します。大容量化と高速化が進むHDD市場の現状と未来を、最新の業界データとともにご紹介します。

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HDD関連の最新ニュース

  • 24TBの大容量HDDが登場
    Western Digitalは2024年2月9日、エンタープライズ向け「WD Gold」シリーズから24TBの大容量HDD「WD241KRYZ」を約11万円で発売しました。この製品は、データセンターやクラウドストレージ向けに設計された高性能HDDで、従来モデルと比べて33%の容量増を実現しています。
  • HAMR技術の採用が加速
    Heat-Assisted Magnetic Recording(HAMR)技術の採用が加速しています。Intevacの発表によると、HDDメーカー2社がHAMR技術の量産に向けて動き出しており、2024年から2025年にかけてHAMR搭載HDDの本格的な市場投入が予想されています。HAMR技術により、HDDの記録密度が飛躍的に向上し、さらなる大容量化が期待されます。
  • AI需要によるHDD市場の回復
    人工知能(AI)関連のデータセンター需要増加により、HDDの需要が急増しています。特に、ニアラインと呼ばれるデータ保存用HDDの需要が伸びており、HDDメーカーの業績回復に寄与しています。AI時代におけるビッグデータの重要性が高まる中、HDDの役割が再評価されています。

HDDとは?

HDDの基本構造

ハードディスクドライブ(HDD)は、磁気記録方式を用いた大容量データストレージデバイスです。主要な構成要素として、磁性体を塗布した円盤(プラッタ)、データの読み書きを行うヘッド、プラッタを高速回転させるスピンドルモーター、ヘッドを移動させるアクチュエーターなどがあります。これらの精密な機械部品が密閉された筐体内で協調して動作し、高速かつ大容量のデータ記録を実現しています。

HDDの記録方式

現在のHDDの主流は垂直磁気記録方式です。この方式では、磁性体の磁化を垂直方向に配列させることで、従来の水平磁気記録方式よりも高い記録密度を実現しています。さらに、最新技術としてHeat-Assisted Magnetic Recording(HAMR)やMicrowave-Assisted Magnetic Recording(MAMR)などの次世代記録方式の開発が進んでおり、これらの技術により1平方インチあたり2テラビット以上の超高密度記録が可能になると期待されています。

HDDの性能指標

HDDの性能を評価する主な指標には、記憶容量、データ転送速度、アクセス時間などがあります。記憶容量は現在、コンシューマー向けで最大22TB、エンタープライズ向けで24TBまで達しています。データ転送速度は、インターフェース速度(例:SATA 6Gbps)と内部転送速度(例:200MB/s以上)で表されます。アクセス時間は、シーク時間(平均4-8ms)とレイテンシ(回転速度に依存、7200rpmで約4ms)の合計で評価されます。これらの性能指標は、HDDの用途や価格帯によって大きく異なります。

HDDの市場規模

世界のHDD市場規模

世界のハードディスクドライブ(HDD)市場は、2024年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)6.9%で成長し、2030年までに推定587億米ドルに達すると予想されています。この成長の主な要因は、スマートフォンの普及とスマート技術・コネクテッド技術の採用増加です。特に、データセンターやクラウドストレージの需要拡大が市場をけん引しています。

用途別市場動向

HDD市場は、モバイル、コンシューマー、デスクトップ、エンタープライズ、ニアラインなどの用途別セグメントに分かれています。予測期間中、最も高い成長が見込まれるのはモバイルセグメントです。一方、エンタープライズやニアラインセグメントも、ビッグデータやAI需要の増加により堅調な成長が期待されています。特に、大容量データ保存に適したニアラインHDDの需要が急増しており、市場の重要な成長ドライバーとなっています。

地域別市場予測

地域別では、アジア太平洋地域が予測期間中に最も高い成長率を示すと予想されています。この地域では、急速なデジタル化とクラウドサービスの普及が市場成長を後押ししています。北米と欧州も、データセンターの需要増加やエッジコンピューティングの発展により、安定した成長が見込まれています。新興国市場では、デジタルインフラの整備に伴いHDD需要が拡大すると予測されており、グローバルHDD市場の成長に寄与すると考えられています。

HDDの主な用途

データセンター向けHDD

データセンター向けHDDは、大容量・高信頼性・低消費電力が求められます。主に3.5インチの大容量モデルが使用され、最新のエンタープライズ向けHDDでは24TBの容量を実現しています。これらのHDDは、RAID構成で使用されることが多く、24時間365日の連続稼働に対応しています。また、ヘリウム充填技術を採用することで、消費電力の低減と信頼性の向上を図っています。データセンター向けHDDの需要は、クラウドサービスやAI関連のビッグデータ処理の増加により、今後も拡大が見込まれています。

パーソナルコンピュータ向けHDD

パーソナルコンピュータ(PC)向けHDDは、主に2.5インチサイズが使用されています。容量は1TB〜4TB程度が一般的で、7200rpmの高速回転モデルも広く採用されています。近年は、SSDとの併用が増えており、OSやアプリケーションの起動用にSSD、大容量データの保存用にHDDを使用するハイブリッド構成が人気です。PC向けHDD市場は、SSDの普及により縮小傾向にありますが、大容量データの保存ニーズは依然として高く、一定の需要が続いています。

外付けストレージ向けHDD

外付けストレージ向けHDDは、データバックアップやポータブルストレージとして広く使用されています。USB 3.2 Gen 2やThunderbolt 3などの高速インターフェースに対応し、最大転送速度は10Gbps以上に達します。容量は1TB〜22TBまで幅広いラインナップがあり、用途に応じて選択できます。最近のトレンドとしては、耐衝撃性能の向上や暗号化機能の搭載、NAS(Network Attached Storage)機能の統合などが挙げられます。外付けHDD市場は、クラウドストレージサービスとの競合がありますが、オフラインでの大容量データ保存ニーズにより、安定した需要が続いています。

HDDの主な種類

3.5インチHDD

3.5インチHDDは、主にデスクトップPCやサーバー、外付けストレージに使用される大容量モデルです。現在、コンシューマー向けで最大22TB、エンタープライズ向けで24TBの容量を実現しています。回転速度は5400rpm、7200rpm、10000rpmなどがあり、用途に応じて選択できます。大容量化技術として、PMR(垂直磁気記録)、SMR(瓦書き記録)、HAMR(熱アシスト磁気記録)などが採用されています。3.5インチHDDは、容量あたりのコストが最も低いため、大容量データストレージの主力製品として今後も需要が続くと予想されています。

2.5インチHDD

2.5インチHDDは、主にノートPCや小型サーバー、ポータブル外付けストレージに使用されるコンパクトモデルです。容量は500GB〜5TB程度が一般的で、回転速度は5400rpmや7200rpmが主流です。薄型化が進んでおり、最薄モデルでは厚さ7mmを実現しています。2.5インチHDDは、省電力性と静音性に優れており、モバイル用途に適しています。しかし、SSDの普及により市場シェアは縮小傾向にあり、主に大容量・低価格帯の製品に需要がシフトしています。

ニアラインHDD

ニアラインHDDは、エンタープライズHDDとコンシューマーHDDの中間に位置する製品カテゴリーです。主にクラウドストレージやバックアップシステム、アーカイブ用途に使用されます。容量は8TB〜20TB程度で、回転速度は主に7200rpmです。ニアラインHDDは、エンタープライズHDDほどの高性能・高信頼性は必要としませんが、コンシューマーHDDよりも耐久性が高く、24時間365日の連続稼働に対応しています。AI関連のデータセンター需要増加により、ニアラインHDDの市場は急成長しており、HDDメーカーの主力製品となっています。

HDDの技術的な課題

記録密度の限界

HDDの記録密度向上は、現在の垂直磁気記録(PMR)技術で1平方インチあたり1テラビット程度が限界と言われています。この壁を突破するために、熱アシスト磁気記録(HAMR)やマイクロ波アシスト磁気記録(MAMR)などの次世代技術の開発が進められています。HAMRは、レーザーで磁性体を瞬間的に加熱して書き込みを行う技術で、2〜3テラビット/平方インチの記録密度を実現できると期待されています。しかし、これらの新技術の量産化には、熱安定性や信頼性の確保、製造コストの低減など、まだ多くの課題が残されています。

アクセス速度の向上

HDDは機械的な動作を伴うため、データアクセス速度に物理的な限界があります。現在の最高速HDDでも、平均シーク時間は4ms程度、データ転送速度は300MB/s程度にとどまっています。この課題に対して、マルチアクチュエーター技術(1台のHDDに複数のヘッドアクチュエーターを搭載)やインテリジェントキャッシング(AIを用いた高度なキャッシュ制御)などの新技術が開発されています。また、HDDとSSDを組み合わせたハイブリッドドライブも、アクセス速度向上の一つの解決策として注目されています。しかし、これらの技術を採用しても、純粋なSSDのパフォーマンスには及ばないのが現状です。

信頼性と耐久性の向上

HDDは精密機械であるため、衝撃や振動に弱く、長期使用による機械的な劣化が避けられません。特に、データセンターなどで24時間365日稼働するエンタープライズHDDでは、高い信頼性と耐久性が求められます。この課題に対して、ヘリウム充填技術(ドライブ内部をヘリウムガスで満たす)や、高度なエラー訂正技術、自己診断機能の強化などが進められています。また、振動や温度変化に強い新素材の開発や、ヘッドの浮上量制御技術の改良なども行われています。しかし、機械的な部品を含むHDDの信頼性向上には限界があり、特に長期保存データの完全性保証には課題が残されています。

HDDのトップシェアメーカー

シーゲートテクノロジー

シーゲートテクノロジーは、2024年会計年度の売上高が前年比11.3%減の65億5100万米ドルとなりました。2年連続の減少となりましたが、営業損益は前年の赤字から黒字に転換し、4億5200万米ドルの営業利益を計上しました。粗利益率も23.4%と前年度から5.1ポイント上昇しています。

同社のHDD事業では、大容量品(マスキャパシティ品)の割合が年々上昇しており、2024年度には80%に達しました。これは、データセンター向けの大容量HDDの需要が増加していることを示しています。

ウエスタンデジタル

ウエスタンデジタルも2024年会計年度の業績を発表しましたが、具体的な数字は記事に記載されていません。しかし、両社ともHDD市場の回復傾向を示しています。

HDDの技術動向

HAMR技術の採用加速

Heat-Assisted Magnetic Recording(HAMR)技術の採用が加速しています。シーゲートは2023年6月にHAMR技術のロードマップを発表し、32TB容量のHAMRハードドライブの詳細を明らかにしました。この技術により、HDDの記録密度が飛躍的に向上し、さらなる大容量化が期待されます。

AI需要によるHDD市場の回復

人工知能(AI)関連のデータセンター需要増加により、HDDの需要が急増しています。特に、ニアラインと呼ばれるデータ保存用HDDの需要が伸びており、HDDメーカーの業績回復に寄与しています。

HDD市場の今後の展望

世界のハードディスクドライブ(HDD)市場規模は、2024年に199億3,000万米ドルと推定されていますが、2029年までに155億3,000万米ドルに減少すると予想されています。これは、SSDの普及によるHDD需要の減少が主な要因と考えられます。

しかし、大容量データストレージの需要は依然として高く、特にデータセンターやクラウドストレージ向けの大容量HDDには一定の需要が続くと予想されます。HDDメーカーは、HAMR技術などの新技術を活用して、さらなる大容量化と高性能化を進めることで、市場シェアの維持を図っていくでしょう。

参考サイト