半導体、電子デバイス産業の発展に欠かせないCVD成膜ガス。本記事では、CVD成膜ガスの基礎知識から最新の市場動向、主要メーカーまで、エンジニア必見の情報を徹底解説します。
CVD成膜ガスに関する最新ニュース
- 超薄型マスフローコントローラーが登場
2025年1月、堀場エステックが超薄型マスフローコントローラー「DZ-107」を発売しました。わずか10mm幅でありながら、従来モデルの約7倍となる20SLMの大流量化を実現。CVDやALDなどの大流量ガス制御を必要とする成膜プロセスに対応可能となり、半導体製造の効率化が期待されています。
- 新しいCVD技術「ミストCVD法」の開発
ミストCVD技術を有するFLOSFIAの共同研究先の東京大学の研究チームが、マイクロサイズのミストを使用した新しいCVD技術「ミストCVD法」を開発しました。この技術により、大面積にわたって均質な膜を形成することが可能になり、次世代の半導体製造プロセスへの応用が期待されています。 - 業界初、液体原料から直接成膜するCVD技術
魁半導体が開発した新技術では気化させる工程(機器)の必要がなく、原料から直接プラズマ装置「直接気化式-薄膜形成装置DH-CVD」に供給し成膜します。液体成分の揮発性を利用した当社の新技術で、二価アルコール(ジオール)以上のポリオールと膜の原料液含有の組成物(溶液)を販売します。
CVD成膜ガスとは?
CVDの基本原理
CVD(Chemical Vapor Deposition)は、化学気相成長法と呼ばれる薄膜形成技術です。気体状態の原料(CVD成膜ガス)を反応容器内に導入し、熱やプラズマなどのエネルギーを加えて化学反応を起こさせ、基板上に目的の薄膜を形成します。
CVD成膜ガスの役割
CVD成膜ガスは、この化学反応の原料となる気体です。シラン(SiH4)や六フッ化タングステン(WF6)などが代表的で、目的の薄膜の組成に応じて選択されます。これらのガスが化学反応を起こすことで、均一で高品質な薄膜が形成されます。
CVDの特徴と利点
CVDは、複雑な形状の基板にも均一な薄膜を形成できる点が大きな特徴です。また、高速で大面積の成膜が可能なため、量産性に優れています。さらに、原子レベルでの膜厚制御や、多層膜の形成も可能であり、半導体デバイスの微細化・高性能化に不可欠な技術となっています。
CVD成膜ガスは、この優れた薄膜形成技術を支える重要な材料です。半導体製造プロセスの中でも特に重要な役割を果たしており、デバイスの性能や信頼性に直接影響を与えます。次世代の半導体技術の発展には、CVD成膜ガスの更なる進化が不可欠であり、研究開発が活発に行われています。
CVD成膜ガスの市場規模
世界市場の成長予測
CVD成膜ガスを含む薄膜半導体成膜市場は、2023年に235億米ドルと評価されました。2024年から2032年にかけて、年平均成長率(CAGR)15%で成長すると予測されています。この急成長は、高性能半導体デバイスの需要増加によるものです。
半導体製造装置市場との関連
半導体製造装置市場全体も急成長しており、2025年には前年比31%増の2兆4,000億円規模に達すると予想されています。特にAI関連の需要が急増しており、CVD装置を含む成膜装置の需要も拡大傾向にあります。
地域別の市場動向
アジア地域、特に中国、韓国、台湾を中心に市場が急速に拡大しています。これらの国々では半導体製造拠点の拡大が進んでおり、CVD成膜ガスの需要が高まっています。北米市場でも、米国政府の支援策により半導体製造の復活を目指しており、CVD成膜ガス市場も活発化しています。
CVD成膜ガス市場の成長は、半導体産業全体の発展と密接に関連しています。特に、AIやIoT、5Gなどの新技術の普及に伴い、高性能半導体デバイスの需要が急増しています。これに伴い、CVD成膜ガスの需要も拡大しており、市場は今後も持続的な成長が見込まれています。また、環境負荷低減への投資(GX)の影響も大きく、より効率的で環境に配慮したCVD成膜ガスの開発が進められています。
CVD成膜ガスの種類
シリコン系ガス
シラン(SiH4)は、最も一般的に使用されるCVD成膜ガスの一つです。シリコン酸化膜(SiO2)やシリコン窒化膜(Si3N4)の形成に用いられ、半導体デバイスの絶縁層や保護膜として重要な役割を果たします。また、ジシラン(Si2H6)やトリシラン(Si3H8)なども、より高速な成膜が可能なガスとして使用されています。さらに、テトラエトキシシラン TEOS(Si(OC2H5)4)は、シラン系ガスに代わる重要なCVD成膜ガスとして広く使用されています。常温で液体であり、取り扱いが容易で安全性が高い、優れたステップカバレッジを持ち、複雑な表面形状にも均一な膜を形成できる、低温(400℃程度)でのプラズマCVDプロセスが可能といった特徴があり、層間絶縁膜やパッシベーション膜として広く使用されています。オゾンCVDやプラズマCVDなど、様々な成膜方法に対応可能です。
金属系ガス
六フッ化タングステン(WF6)は、タングステン薄膜の形成に使用される代表的な金属系CVD成膜ガスです。半導体デバイスの配線材料として広く利用されています。その他、四塩化チタン(TiCl4)や三塩化ホウ素(BCl3)なども、それぞれチタンやホウ素を含む薄膜の形成に使用されます。
有機金属ガス
トリメチルガリウム((CH3)3Ga)やトリメチルアルミニウム((CH3)3Al)などの有機金属ガスは、主にMOCVD(有機金属化学気相成長)プロセスで使用されます。これらのガスは、化合物半導体や高誘電率(High-k)材料の成膜に用いられ、高性能デバイスの製造に不可欠です。
CVD成膜ガスの種類は多岐にわたり、それぞれが特定の薄膜形成に適しています。半導体デバイスの構造が複雑化し、要求される性能が高度化するにつれ、新しいCVD成膜ガスの開発も進んでいます。例えば、低温での成膜が可能なガスや、より高純度な薄膜を形成できるガスの研究が活発に行われています。また、環境負荷の低減を目指し、より安全で取り扱いやすいCVD成膜ガスの開発も進められています。
CVD成膜ガスの主な用途
半導体デバイスの絶縁膜形成
CVD成膜ガスは、トランジスタやメモリデバイスの絶縁膜形成に広く使用されています。シラン(SiH4)やテトラエトキシシラン(TEOS)を用いたシリコン酸化膜(SiO2)や窒化シリコン膜(Si3N4)の形成は、デバイスの電気的特性を制御する上で極めて重要です。特に、高誘電率(High-k)材料の成膜には、有機金属CVD成膜ガスが用いられ、デバイスの微細化と高性能化に貢献しています。
配線材料の形成
半導体チップ内の配線材料として、タングステンやアルミニウムなどの金属薄膜がCVD法で形成されます。六フッ化タングステン(WF6)やトリメチルアルミニウム((CH3)3Al)などのCVD成膜ガスが使用され、高速で信頼性の高い配線を実現しています。特に、微細な配線構造においては、CVD法の優れたステップカバレッジ特性が活かされています。
光学デバイスの製造
CVD成膜ガスは、LEDや太陽電池などの光学デバイスの製造にも重要な役割を果たしています。例えば、GaN(窒化ガリウム)系LEDの製造では、トリメチルガリウム((CH3)3Ga)とアンモニア(NH3)を用いたMOCVDプロセスが一般的です。また、アモルファスシリコン太陽電池の製造にも、シラン(SiH4)を用いたプラズマCVDが広く利用されています。
CVD成膜ガスの用途は、半導体産業の発展とともに拡大し続けています。最近では、次世代メモリデバイスや3D NANDフラッシュメモリの製造にも、新しいCVD成膜プロセスが導入されています。また、パワー半導体デバイスの分野でも、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などの新材料の成膜にCVD技術が活用されており、電気自動車や再生可能エネルギー分野での応用が期待されています。さらに、グラフェンやカーボンナノチューブなどの新素材の製造にもCVD技術が用いられ、次世代デバイスの開発を支えています。
CVD成膜ガスの主な製造メーカー
日本の主要メーカー
日本ではCVD成膜ガスの製造において、大陽日酸が業界をリードしています。同社は、高純度ガスの製造技術と安定供給システムを強みとし、半導体製造向けに幅広いCVD成膜ガスを提供しています。また、昭和電工や日本エア・リキードも、高品質なCVD成膜ガスの製造で知られています。
海外の大手メーカー
海外では、米国のAir Products and Chemicalsや、ドイツのLinde plcが、グローバル市場でCVD成膜ガスの主要サプライヤーとして知られています。これらの企業は、世界中の半導体メーカーに高純度ガスを供給し、製品の品質と安定供給で高い評価を得ています。
新興メーカーの台頭
近年、中国や韓国などのアジア地域で新興のCVD成膜ガスメーカーが台頭しています。これらの企業は、急成長する地域の半導体産業に支えられ、技術力と生産能力を急速に向上させています。例えば、中国の江蘇華昌化工や韓国のSK Materialsなどが、地域市場で存在感を増しています。
CVD成膜ガス市場は、高度な技術と厳格な品質管理が要求される分野です。そのため、長年の経験と実績を持つ大手メーカーが市場の大部分を占めています。しかし、半導体産業の急速な成長と技術革新に伴い、新興メーカーも独自の技術や地域密着型のサービスを武器に市場シェアを拡大しつつあります。また、環境負荷の低減や安全性の向上など、新たな課題に対応する製品開発も活発化しており、メーカー間の競争が一層激化しています。今後は、技術革新と安定供給の両立が、CVD成膜ガスメーカーの競争力を左右する重要な要素となるでしょう。
まとめ
CVD成膜ガスは、半導体産業の発展を支える重要な材料です。本記事では、CVD成膜ガスの基本から最新の市場動向、主要メーカーまで幅広く解説しました。
参考サイト
- 魁半導体 業界初、液体原料で安全に成膜する新CVD技術を開発 直接気化式-薄膜形成装置「DH-CVD」9月21日発売
- CVD(化学気相成長)
- 2次元材料の進化を支えるCVD技術:基礎から最新応用まで
- 半導体製造装置市場の動向と主要企業
- CVD(化学気相成長)とは?原理や特徴、種類を解説
- CVD(Chemical Vapor Deposition)とは
- CVD装置 | 株式会社ジェット
- CVD法による機能性薄膜の作製と評価
- CVD装置 | 株式会社小宮製作所
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