パワー半導体は、高電圧・大電流を制御する半導体デバイスとして、電力変換や制御の分野で重要な役割を果たしています。本記事では、パワー半導体の基本的な概念から最新の市場動向、主要な用途や種類、技術的課題、そして業界をリードする企業までを包括的に解説します。省エネルギー化や電気自動車の普及に伴い、パワー半導体の重要性はますます高まっています。
パワー半導体関連の最新ニュース
- 三菱電機がxEV用SiC-MOSFETチップのサンプル提供を開始
三菱電機は2024年11月14日、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)などの電動車(xEV)向けのSiC-MOSFETチップのサンプル提供を開始しました。このチップは、従来のプレーナー型SiC-MOSFETと比較して電力損失を約50%低減し、xEVの航続距離延伸や電費改善に貢献します。
- パワー半導体市場、2030年に約370億ドル規模へ
矢野経済研究所の調査によると、パワー半導体の世界市場は2030年に369億8000万米ドル規模に達する見通しです。このうち、SiC(炭化ケイ素)パワー半導体が17.4%を占めると予測されています。特に自動車分野での需要拡大が期待されています。
- 2023年SiCパワーデバイス世界売上高ランキング発表
市場調査会社TrendForceの調査によると、2023年のSiCパワーデバイス市場シェアでSTMicroelectronicsが32.6%を占めて首位となりました。上位5社(ST、onsemi、Infineon Technologies、Wolfspeed、ローム)で市場の91.9%を占めており、市場の寡占化が進んでいます。
パワー半導体とは?
高電圧・大電流を制御する半導体デバイス
パワー半導体は、高い電圧と大きな電流を制御・変換できる半導体デバイスです。通常の半導体と異なり、スイッチング動作によって柔軟に電力・電圧変換を行うため、電力損失を低減できます。この特性により、省エネルギー実現に欠かせないキーデバイスとして注目されています。
通常の半導体との違い
パワー半導体は、通常の半導体と比較して高い耐電圧性能と大電流耐性を持っています。また、サイズも小さなクッキーからお弁当箱くらいまでさまざまで、用途に応じて選択されます。一方、通常の半導体は数値計算やデータ保持などに使用され、非常に小さな電力で動作します。
パワー半導体の主な特徴
パワー半導体の主な特徴には、高耐電圧能力、高電流耐性、低いオン抵抗、高速スイッチング能力、耐熱性などがあります。これらの特性により、電力変換や制御アプリケーションにおいて高い効率と安定性を実現しています。また、広範なアプリケーションに対応できる柔軟性も重要な特徴の一つです。
パワー半導体の市場規模
2024年の市場規模予測
世界のパワー半導体市場は、2024年に542億米ドルに達すると推定されています。この数字は、パワー半導体の需要が急速に拡大していることを示しています。特に、電気自動車や再生可能エネルギー分野での需要増加が市場成長を牽引しています。
2029年までの成長予測
市場調査会社Mordor Intelligenceの予測によると、パワー半導体市場は2029年までに708億3000万米ドルに達し、2024年から2029年にかけて年平均成長率(CAGR)4.93%で成長すると予測されています。この成長は、産業のデジタル化や電動化の進展によって後押しされると考えられています。
SiCパワー半導体の市場シェア
SiC(炭化ケイ素)パワー半導体は、パワー半導体市場の中でも特に注目されている分野です。矢野経済研究所の予測によると、2030年にはSiCパワー半導体が全パワー半導体市場の17.4%を占めると予想されています。SiCの高い性能と効率性が、特に自動車産業や産業機器分野で評価されていることが、この成長の背景にあります。
パワー半導体の主な用途
電気自動車(EV)とハイブリッド車(HEV)
パワー半導体は、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)のパワートレインシステムにおいて重要な役割を果たしています。特に、モーター駆動用インバーターやオンボードチャージャー(OBC)に使用され、車両の電力効率向上や航続距離の延長に貢献しています。SiCパワー半導体の採用により、さらなる性能向上が期待されています。
産業機器と電力変換システム
工場の生産ラインや大型機械などの産業機器でも、パワー半導体は広く使用されています。モーター制御、電力変換、エネルギー回生などの用途で活躍し、生産効率の向上や省エネルギー化に貢献しています。また、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーシステムにおいても、電力変換や系統連系のために不可欠な部品となっています。
家電製品と通信インフラ
家庭用エアコンや冷蔵庫、洗濯機などの白物家電にもパワー半導体が使用されており、省エネ性能の向上に寄与しています。また、5Gなどの次世代通信インフラにおいても、基地局の電力制御や周波数変換にパワー半導体が活用されています。高速通信の実現と同時に、エネルギー効率の向上にも貢献しています。
パワー半導体の主な種類
パワーMOSFET
パワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)は、高速スイッチングが可能なパワー半導体デバイスです。低電圧・中電流アプリケーションに適しており、コンピューターの電源や自動車の電装品などに広く使用されています。シリコン(Si)を基板とするものが一般的ですが、近年はSiC(炭化ケイ素)を用いたSiC-MOSFETも注目を集めています。
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)
IGBTは、バイポーラトランジスタとMOSFETの特性を組み合わせたパワー半導体デバイスです。大電力を扱える能力と比較的高速なスイッチング特性を兼ね備えており、電気自動車のインバーターや産業用モーター制御などの中高電圧・大電流アプリケーションで広く使用されています。
SiCとGaNパワーデバイス
SiC(炭化ケイ素)とGaN(窒化ガリウム)は、次世代パワー半導体材料として注目されています。これらの材料を用いたパワーデバイスは、従来のシリコンデバイスと比較して高耐圧、低損失、高温動作が可能という特徴があります。特にSiCパワーデバイスは、電気自動車や再生可能エネルギー分野での採用が進んでおり、市場規模の拡大が予測されています。
パワー半導体の技術的な課題
高温動作と放熱問題
パワー半導体デバイスの小型化・高性能化に伴い、動作時の発熱が大きな課題となっています。特に電気自動車用途では、小型化の要求が厳しいため、電流密度を高めた条件で使用することがあります。その結果、半導体チップとワイヤや基板との熱膨張差による熱的サイクル負荷が増大し、熱応力による疲労破壊が低寿命の要因となっています。効率的な放熱設計や新しい実装技術の開発が求められています。
高耐圧化と低損失化の両立
パワー半導体デバイスには、高い耐電圧性能と低いオン抵抗(低損失)の両立が求められます。しかし、一般的にこれらの特性はトレードオフの関係にあり、両立が困難です。SiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体材料の採用により、この課題の解決が進んでいますが、さらなる材料技術や設計技術の革新が必要とされています。
信頼性と長寿命化
パワー半導体デバイスは、高温・高電圧・大電流の厳しい環境下で動作するため、高い信頼性と長寿命が要求されます。特に自動車用途では、10年以上の長期信頼性が求められます。熱ストレスや電気的ストレスによる劣化メカニズムの解明と、それに基づく設計・製造技術の改善が継続的な課題となっています。また、新材料デバイスの長期信頼性データの蓄積も重要な課題です。
パワー半導体市場のトップシェアメーカー
パワー半導体市場全体(シリコンMOSFET、IGBT、SiCを含む)におけるトップシェアメーカーは以下の通りです:
- インフィニオン・テクノロジーズ
インフィニオン・テクノロジーズは、パワー半導体市場で首位を維持しています。2022年のパワー半導体市場において、インフィニオンは22.8%の市場シェアを獲得し、他社を大きく引き離しています[4]。同社は、シリコンパワー半導体では世界シェア1位の業界トップ企業となっています。
インフィニオンは、主にシリコンベースのMOSFETとIGBTに強みを持っています。特に自動車産業向けのパワー半導体では、高い信頼性と効率性で知られています。同社は、従来のシリコンデバイスの性能向上にも継続的に取り組んでおり、高電圧・大電流に対応した製品ラインナップを展開しています。
- オン・セミコンダクター(onsemi)
オン・セミコンダクターは、パワー半導体市場で2位のポジションを占めています。2022年の市場シェアは11.2%となっています。同社は、幅広いシリコンベースのパワー半導体製品を提供しており、特に産業用途と自動車用途で強みを持っています。
オン・セミコンダクターのシリコンMOSFETとIGBTは、高効率と低損失を特徴としており、エネルギー管理システムや電動車両の電力変換システムなどに広く採用されています。同社は、製造プロセスの最適化と製品の小型化にも注力しており、市場ニーズに合わせた製品開発を進めています。
- STマイクロエレクトロニクス
STマイクロエレクトロニクスは、パワー半導体市場全体で3位の位置を占めており、2022年の市場シェアは9.9%です。同社は、シリコンベースのパワーMOSFETとIGBTにおいて強力な製品ラインナップを持っています。
STマイクロエレクトロニクスのシリコンパワー半導体は、高い信頼性と優れた熱特性で知られており、産業機器、家電製品、自動車などの幅広い分野で使用されています。同社は、先進的な製造技術を活用して、高性能かつコスト効率の良いシリコンデバイスの開発に成功しており、特に低電圧から中電圧帯のアプリケーションで強みを発揮しています。
これらの企業は、従来のシリコンベースのパワー半導体技術の改良に継続的に取り組むとともに、SiCやGaNなどの次世代パワー半導体技術にも投資を行っており、市場のリーダーシップを維持・強化しています。特に電気自動車や産業用途での需要増加を背景に、今後も成長が期待されています。
参考サイト
- パワーデバイス
- 三菱電機、xEV用SiC-MOSFETチップのサンプル提供を開始
- パワー半導体の世界市場:市場シェア分析、産業動向・統計、成長予測(2024年~2029年)
- パワー半導体の市場規模、2030年に6兆円超へ
- パワー半導体とは?種類や特徴、用途を解説
- パワー半導体とは?基礎知識から種類、用途まで詳しく解説
- パワー半導体
- パワー半導体の世界市場、2030年に1000億ドル超え
- パワー半導体とは?市場規模・種類・メーカーを解説
- キーワード解説一覧
- 三菱電機株式会社は、電気自動車(EV)やプライグインハイブリッド車(PHEV)などの電動車(以下、xEV)の駆動モーター用のインバーターに使用されるxEV用SiC-MOSFET
- 「パワー半導体」に関するプレスリリース一覧
- Power Semiconductor Market Share & Analysis – Industry Trends Report
- パワー半導体市場、2029年に1000億ドル規模に Yole調べ
- パワー半導体とは?種類や特徴、用途を解説
- パワー半導体とは?種類や特徴、用途を解説
- パワー半導体|RESONAC
- パワー半導体の世界市場、2030年に1000億ドル超え Yole調べ
- パワー半導体とは?種類や特徴、市場動向を解説
- 2024年のパワー半導体向けウェハ市場は前年比23.4%増の2813億円、富士経済予測
- パワー半導体市場アップデート 2024年春 | フィンタクト
- パワー半導体市場、2035年に7兆7757億円規模へ
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- SiCパワーデバイス
- GaNパワーデバイス
- パワー半導体の種類と特徴、市場動向について
- パワー半導体の世界市場、2026年に4兆円規模に – 富士経済
- パワー半導体の市場動向と最新技術