半導体製造において欠かせないフォトマスク。微細化が進む半導体デバイスの製造に不可欠な、この重要技術の基礎から最新動向まで、詳しく解説します。
フォトマスク関連の最新ニュース
- EUVリソグラフィ向け2nm世代フォトマスクの開発進展
大日本印刷(DNP)が2nm世代以降のEUVリソグラフィ向けフォトマスクの微細パターン解像に成功しました。次世代半導体向けの高NA EUVフォトマスクの評価用サンプル提供も開始されています。 - 国内企業がNEDOプロジェクトに参画
DNPは、Rapidus社が参画するNEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」に再委託先として参画。最先端ロジック半導体向けフォトマスク製造プロセスおよび保証技術の開発を進めています。 - 次世代EUVフォトマスクの共同開発
DNPは、ベルギーの先端研究機関imecと次世代EUVフォトマスクの共同開発に関する契約を締結。国際的な半導体産業の枠組みの中で、様々なパートナーと連携して開発を推進しています。 - テクセンドフォトマスクの社名変更
TOPPANホールディングスのグループ会社である株式会社トッパンフォトマスクは、2024年11月1日より社名を「テクセンドフォトマスク株式会社」に変更しました。この社名変更により、先端微細加工技術を強みとする企業としての認知度を高め、グローバル市場での競争力強化を目指しています。 - テクセンドフォトマスク、IBMとの共同開発開始
テクセンドフォトマスク(旧トッパンフォトマスク)は、IBMと2nmロジック半導体プロセスノードに対応するEUVフォトマスクの共同開発契約を締結しました。この協業により、半導体の微細化を支援し、業界の発展に貢献することを目指しています。
フォトマスクとは?
フォトマスクの基本構造
フォトマスクは、透明な基板(ガラスや石英)に金属薄膜(通常はクロム)がコーティングされ、特定のパターンに合わせて金属層を除去して不透明部分と透明部分を形成したものです。この構造により、光を通す部分と遮る部分を作り出し、半導体ウェハー上に回路パターンを転写します。
フォトマスクの役割
半導体製造プロセスにおいて、フォトマスクは光リソグラフィー技術で使用されるマスターテンプレートとして機能します。フォトマスク上のパターンによって光が制御され、半導体ウェハー上に微細な回路パターンが形成されます。この技術により、ナノメートル単位の精密な回路形成が可能となり、高性能な半導体デバイスの製造を実現しています。
フォトマスクとレチクルの違い
フォトマスクとレチクルは似た役割を持ちますが、使用方法に違いがあります。フォトマスクはウェハー全体に転写されるパターンを持つのに対し、レチクルは集積回路の特定部分の詳細なパターンを描くために使用されます。レチクルはステッパーやスキャナーと組み合わせて使用され、特定の拡大縮小率でパターンを投影することができます。
フォトマスクの市場規模
グローバル市場の成長予測
フォトマスク市場は着実に成長を続けており、2023年の市場規模は49億3,000万米ドルでした。2031年までには71億4,000万米ドルに達すると予測されており、2023年から2031年にかけて年平均成長率(CAGR)4.7%で成長すると見込まれています。
地域別市場シェア
フォトマスク市場において、日本は30%以上のシェアを誇る最大の市場となっています。北アメリカと韓国が合わせて約30%のシェアを占めており、これらの地域が市場を牽引しています。特に日本企業の技術力と生産能力が、市場シェアの維持に大きく貢献しています。
製品別市場シェア
製品面では、クォーツマスクが最大のセグメントであり、市場シェアの約85%を占めています。クォーツマスクは高い透過率と低い熱膨張係数を持つため、特に先端的な半導体製造プロセスにおいて重要な役割を果たしています。残りの市場シェアは、ソーダライムマスクやその他の材料によるマスクが占めています。
フォトマスクの主な用途
半導体製造
フォトマスクの最も重要な用途は、半導体デバイスの製造です。特に集積回路(IC)の製造において、フォトマスクは微細な回路パターンを形成するために不可欠です。最先端のロジック半導体や高密度メモリチップの製造には、EUVリソグラフィ技術に対応した高精度なフォトマスクが使用されています。これにより、2nm世代以降の超微細プロセスが実現可能となっています。
ディスプレイ製造
フラットパネルディスプレイ(FPD)の製造もフォトマスクの重要な用途の一つです。液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)の製造プロセスにおいて、フォトマスクは画素回路や電極パターンの形成に使用されます。大型ディスプレイから高解像度のスマートフォン用ディスプレイまで、様々な種類のディスプレイ製造にフォトマスクが活用されています。
MEMS製造
マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)の製造にもフォトマスクは欠かせません。MEMSデバイスは、センサーやアクチュエータなど、様々な用途で使用される微小な機械構造を持つデバイスです。フォトマスクを使用したフォトリソグラフィ技術により、MEMSデバイスの複雑な3次元構造を形成することが可能となっています。加速度センサーや圧力センサー、マイクロミラーデバイスなど、多様なMEMS製品の製造にフォトマスクが活用されています。
フォトマスクの主な種類
バイナリマスク
バイナリマスクは最も基本的なフォトマスクの種類で、透明な部分と完全に不透明な部分の2値(バイナリ)のパターンを持ちます。通常、石英ガラス基板上にクロム層でパターンを形成します。バイナリマスクは比較的製造が容易で、コストも低いため、多くの半導体製造プロセスで使用されています。ただし、微細化が進むにつれて解像度の限界に直面しており、より高度なマスク技術が求められています。
位相シフトマスク(PSM)
位相シフトマスク(Phase Shift Mask: PSM)は、光の位相を制御することで、より高い解像度を実現するフォトマスクです。主に、交互位相シフトマスクと減衰位相シフトマスクの2種類があります。交互PSMは隣接するパターン間で光の位相を180度ずらすことで、コントラストを向上させます。減衰PSMは半透明の位相シフト層を使用し、光の振幅と位相を同時に制御します。PSMは微細なパターンの形成に有効ですが、製造が複雑で高コストという課題があります。
EUVマスク
EUV(極端紫外線)リソグラフィ用のフォトマスクは、従来のマスクとは大きく異なります。EUVマスクは反射型で、多層膜ミラー上に吸収体パターンを形成します。EUV光(波長13.5nm)は物質に強く吸収されるため、透過型のマスクは使用できません。EUVマスクは2nm世代以降の最先端半導体製造に不可欠ですが、製造技術の難度が高く、欠陥管理や検査技術など、多くの技術的課題に直面しています。
フォトマスクの技術的な課題
パターン精度の向上
フォトマスクの最大の技術的課題は、微細化が進む半導体デバイスに対応するパターン精度の向上です。2nm世代以降の半導体製造では、マスク上のパターンサイズが数十ナノメートルレベルになり、その精度要求はさらに厳しくなっています。電子ビーム描画装置の高精度化、エッチングプロセスの改善、パターン補正技術の開発など、様々なアプローチでパターン精度の向上が図られています。特にEUVリソグラフィ用マスクでは、反射型多層膜ミラーの平坦度や吸収体パターンの形状制御が重要な課題となっています。
欠陥管理と検査技術
フォトマスクの欠陥は、半導体デバイスの歩留まりに直接影響するため、厳密な欠陥管理が求められます。ナノメートルサイズの微小欠陥を検出し、修正する技術の開発が進められています。特に、EUVマスクでは多層膜ミラーの欠陥や吸収体パターンの欠陥、さらにはペリクル(保護膜)の欠陥など、多様な欠陥に対処する必要があります。高感度な欠陥検査装置の開発、アクティノメトリ技術による欠陥の影響評価、さらには機械学習を活用した欠陥分類技術など、総合的な欠陥管理システムの構築が進められています。
マスクの長寿命化
半導体製造プロセスにおいて、フォトマスクは繰り返し使用されるため、その耐久性と長寿命化が重要な課題となっています。特にEUVリソグラフィでは、高エネルギーのEUV光による多層膜ミラーの劣化や、吸収体パターンの変形が問題となっています。これらの課題に対して、耐放射線性の高い材料の開発、保護膜(ペリクル)技術の改良、さらにはマスクのクリーニング技術の高度化など、様々なアプローチで長寿命化が図られています。また、マスクの使用履歴を管理し、適切なタイミングでメンテナンスや交換を行うシステムの導入も進められています。
フォトマスクのトップシェアメーカー
日本企業の強さ
フォトマスク市場において、日本企業は高い技術力と生産能力を背景に、強い競争力を持っています。特に、大日本印刷(DNP)と凸版印刷(トッパン)は、世界市場でトップクラスのシェアを誇ります。これらの企業は、長年培ってきた精密印刷技術を基盤に、最先端の半導体製造プロセスに対応したフォトマスク技術を開発しています。特にEUVリソグラフィ用フォトマスクの分野では、日本企業の技術力が世界をリードしており、2nm世代以降の半導体製造に向けた開発を積極的に進めています。
グローバルプレイヤーの動向
日本企業以外にも、米国のPhotronics社や台湾のTaiwan Mask Corporation(TMC)など、グローバルに事業展開する企業が市場で重要な役割を果たしています。これらの企業は、地域ごとの需要に応じた生産体制を構築し、世界中の半導体メーカーにフォトマスクを供給しています。特に、台湾や韓国の企業は、自国の半導体産業の成長とともに急速に技術力を向上させており、市場シェアを拡大しています。グローバル市場では、技術力、生産能力、コスト競争力のバランスが重要となっており、各社が独自の戦略で競争力強化を図っています。
新興企業の台頭
フォトマスク市場では、既存の大手メーカーに加えて、新興企業の台頭も見られます。特に中国市場では、政府の半導体産業育成策を背景に、国内のフォトマスクメーカーが急速に技術力を向上させています。例えば、深圳清溢光電股份有限公司(Shenzhen QingYi Photomask Limited)などの企業が、国内市場でのシェア拡大を図るとともに、海外展開も視野に入れています。また、EUVリソグラフィなどの最先端技術分野では、ベンチャー企業が革新的な技術を開発し、大手企業とのパートナーシップを通じて市場参入を目指す動きも見られます。
参考サイト
- フォトマスクのニュース一覧 ニュースイッチ by 日刊工業新聞社
- News tagged photomask at DIGITIMES
- フォトマスクとは?種類・製造工程・選び方を初心者向けに解説
- フォトマスク – Wikipedia
- 2031 年までのフォトマスク市場の成長要因と機会
- フォトマスクの基礎を解説!
- 半導体製造におけるフォトマスクとレチクルの役割と違い
- 大日本印刷、2nmロジック半導体向けEUVフォトマスク開発でIBMと共同研究契約を締結