イメージセンサは、デジタルカメラやスマートフォンから自動運転車や産業用ロボットまで、幅広い分野で使用される重要な半導体デバイスです。本記事では、イメージセンサの基本から最新の技術動向、市場規模、主要メーカーまでを詳しく解説します。2024年現在のイメージセンサ業界の最新情報を網羅的にお届けします。
イメージセンサ関連の最新ニュース
- 車載向けCMOSイメージセンサの新製品登場
ソニーセミコンダクタソリューションズは、車載カメラ向けに業界初となるRAW画像とYUV画像を同時に処理・出力可能なCMOSイメージセンサー「ISX038」を発表しました。この新製品は、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転システム(AD)向けの外部環境検知・認識用RAW画像と、ドライブレコーダーやAR(拡張現実)などのインフォテインメント用YUV画像を1つのカメラで同時に提供できます。 - イメージセンサ市場シェアの最新動向
2023年のCMOSイメージセンサー市場において、ソニーグループがシェアを45%に拡大し、首位の座を維持しました。競合のSamsung ElectronicsやSK hynixのシェアが停滞または減少する中、ソニーは差を広げています。市場全体の規模は前年比微増の217億9000万米ドルとなり、特に車載分野での平均販売価格(ASP)上昇が顕著でした。 - 新たなノイズ低減技術の確立
ソニーセミコンダクタソリューションズは、イメージセンサーの画質劣化の原因となる「白傷」と呼ばれるノイズの発生メカニズムを解明し、大幅な低減技術を確立しました。この技術は、特にスマートフォン向けの微細化が進んだイメージセンサーの開発において重要な役割を果たすと期待されています。
イメージセンサとは?
光電変換デバイスの基本
イメージセンサーは、光を電気信号に変換する「電子の眼」として機能する半導体デバイスです。人間の眼でいえば網膜に相当し、カメラやスマートフォンなどのデジタル機器で撮影した画像の品質を大きく左右します。
画素構造と信号処理
イメージセンサーは、光を受け取る画素(ピクセル)と呼ばれる微小な受光素子が二次元に配列された構造を持ちます。各画素で光を電気信号に変換し、その信号を読み出して処理することで、デジタル画像を生成します。最新のイメージセンサーでは、画素部分と信号処理部分を積層構造にすることで、高画質化と小型化を両立しています。
イメージングとセンシングの二つの役割
イメージセンサーの用途は、従来の人間の眼で見える光景を画像データ化するイメージング用途に加え、近年では製造現場で使用される特殊なカメラ(UV:紫外線、IR:赤外線、偏光など)のような、人間の眼には見えないさまざまな情報を取得・認識するセンシング用途にまで拡大しています。この二つの役割により、イメージセンサーは私たちの日常生活から産業分野まで、幅広い場面で活用されています。
イメージセンサの市場規模
2024年の市場動向
世界のイメージセンサー市場は、2022年に263億米ドルと評価され、2023年から2032年までの予測期間中に12.9%の複合年間成長率(CAGR)で成長すると予測されています。2024年現在、市場は着実に拡大を続けており、特にスマートフォンや自動車産業における需要が牽引役となっています。
2029年までの成長予測
市場調査会社Yole Groupの予測によると、イメージセンサー市場は2023年から2029年まで年平均成長率(CAGR)4.7%で成長を続け、2029年には286億米ドル規模にまで拡大する見込みです。この成長は、モバイル/コンシューマー分野、産業分野、車載分野など、多岐にわたる用途の拡大によって支えられています。
地域別市場分析
2021年時点で、アジア太平洋地域が収益面で世界のイメージセンサー市場を支配しており、予測期間中に最も高い成長率で成長すると予測されています。特に韓国、日本、中国などの国々を拠点とする企業によるイメージセンサー開発が市場をけん引しています。車載用、家電用、監視用、セキュリティ用などの需要の高まりに対応し、これらの企業が積極的な開発を進めていることが、地域の市場成長を後押ししています。
イメージセンサの主な用途
スマートフォンカメラ
イメージセンサーの最大の用途はスマートフォンカメラです。年間約14億台出荷されるスマートフォンのほとんどが、リア(裏面)とフロント(表面)にカメラを備えており、1台のスマートフォンに少なくとも2個のイメージセンサーが使用されています。最新のハイエンドスマートフォンでは、複数のカメラを搭載するトリプルカメラやクアッドカメラが主流となり、イメージセンサーの需要はさらに増加しています。
自動車産業
自動運転技術の発展に伴い、自動車におけるイメージセンサーの重要性が急速に高まっています。先進運転支援システム(ADAS)や自動運転システムでは、車両周辺の環境を認識するために複数のカメラが使用されます。2023年に商品化されたソニーの車載向けCMOSイメージセンサー「IMX735」は、有効1742万画素の高解像度を実現し、道路状況や車両、歩行者などの認識範囲をより遠距離に拡張できる性能を持っています。
産業用途
工場の自動化や農業、交通監視における新たなマシンビジョンアプリケーションを原動力に、産業分野でのイメージセンサーの需要が急増しています。例えば、製造ラインでの製品検査や寸法確認、ロボットの視覚センサーとしての利用など、多岐にわたる用途があります。高速・高精度な画像処理が要求される産業用途向けに、ソニーは2017年に毎秒1000フレームで対象物の検出と追跡を行うことが可能な高速ビジョンセンサーを商品化しています。
イメージセンサの主な種類
CCDイメージセンサー
CCD(Charge Coupled Device:電荷結合素子)イメージセンサーは、1970年代に開発された古典的なタイプのイメージセンサーです。CCDは高画質を実現できる一方で、消費電力が大きく、製造コストが高いという特徴があります。かつてはデジタルカメラの主流でしたが、現在ではほとんどの用途でCMOSイメージセンサーに置き換わっています。
CMOSイメージセンサー
CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサーは、現在最も広く使用されているタイプです。CMOSは低消費電力、高速読み出し、システムオンチップ化が可能といった利点があり、スマートフォンやデジタルカメラなど、多くの分野で主流となっています。ソニーは2004年にCCDからCMOSへの転換を図り、現在では世界市場シェアの45%を占める最大手となっています。
積層型CMOSイメージセンサー
積層型CMOSイメージセンサーは、画素部分と信号処理部分を別々のチップで製造し、それらを3次元的に積層する最新の技術です。この構造により、高画質、多機能、小型化を同時に実現しています。ソニーは2012年に世界初の積層型CMOSイメージセンサーを商品化し、2015年にはCu-Cu(カッパー・カッパー)接続技術を導入して、さらなる性能向上と生産性向上を実現しています。
イメージセンサの技術的な課題
画素の微細化と感度向上
イメージセンサーの高解像度化に伴い、個々の画素サイズの微細化が進んでいます。しかし、画素が小さくなるほど光を捉える面積が減少し、感度が低下するというトレードオフの関係があります。この課題に対して、裏面照射型構造の採用や、光を効率よく集める「マイクロレンズ」の最適化など、様々な技術革新が行われています。ソニーは2009年に従来比2倍の感度を実現した裏面照射型CMOSイメージセンサーを商品化し、画質向上に大きく貢献しました。
ノイズ低減
高感度化や高速読み出しを追求する中で、ノイズの問題は常に技術者たちを悩ませてきました。特に問題となるのが「白傷」と呼ばれるノイズで、これは製造過程でシリコン結晶が傷つくことで発生します。ソニーの研究者たちは、半導体のシミュレーション技術を活用してこの白傷ノイズを解析し、発生メカニズムを特定。これにより、ノイズを大幅に低減する技術の基礎を確立させました。
高速化と低消費電力化
自動運転や産業用途など、リアルタイムでの高速画像処理が求められる分野が拡大しています。同時に、モバイル機器の長時間使用を可能にするための低消費電力化も重要な課題です。これらの相反する要求に対応するため、イメージセンサー内部の信号処理回路の最適化や、新たな読み出し方式の開発が進められています。例えば、ソニーの車載向けCMOSイメージセンサー「ISX038」は、RAW画像とYUV画像を同時に処理・出力する機能を持ち、システムの簡素化と省電力化を実現しています。
イメージセンサのトップシェアメーカー
ソニーグループ
ソニーグループは、2023年のCMOSイメージセンサー市場において45%のシェアを獲得し、首位の座を維持しています。同社は2004年にCCDからCMOSへの転換を図り、長年のCCD開発で得たノウハウを生かしながらCMOSイメージセンサーの開発・生産にリソースを集中させました。その結果、スマートフォンから車載、産業用途まで幅広い分野で高性能なイメージセンサーを提供し、市場をリードし続けています。
Samsung Electronics
Samsung Electronicsは、ソニーに次ぐ世界第2位のイメージセンサーメーカーです。同社は自社のスマートフォン向けに高性能なイメージセンサーを開発・生産するだけでなく、他社向けにも積極的に供給を行っています。特に高解像度センサーの分野で強みを持ち、1億画素を超える製品をいち早く市場に投入するなど、技術革新をけん引しています。
OmniVision Technologies
OmniVision Technologiesは、中国市場を中心に急成長を遂げているイメージセンサーメーカーです。同社は特に車載向けや監視カメラ向けの製品ラインナップが充実しており、コストパフォーマンスの高さを武器に市場シェアを拡大しています。米中貿易摩擦の影響を受けつつも、車載や産業分野などのより高付加価値市場に重点を移し、生産能力と技術への投資によってさらなるシェア拡大を目指しています。
参考サイト
- 「CMOS」関連の最新 ニュース・レビュー・解説 記事 まとめ
- 「撮像素子」関連の最新 ニュース・レビュー・解説 記事 まとめ
- イメージセンサー市場規模は2031年までに875億米ドルに達する見込み – 最新予測Report Ocean Co. Ltd.
- CMOSイメージセンサーの進化が止まらない
- イメージセンサー技術 | ソニーセミコンダクタソリューションズ
- イメージセンサーの進化と今後の展望 | ソニーセミコンダクタソリューションズ
- 首位ソニーはシェア45%に拡大、2023年のCMOSイメージセンサー市場
- イメージセンサー | プレスリリース一覧 | PR TIMES
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