集積型パッシブデバイス(Integrated Passive Device、IPD)は、半導体産業において急速に注目を集めている技術です。本記事では、IPDの基本概念から最新の市場動向、主要な用途、技術的課題まで、包括的に解説します。5G通信やIoTデバイスの普及に伴い、IPDの重要性はますます高まっています。
IPD関連の最新ニュース
- IPD市場の成長予測
IPD市場は2024年から2031年にかけて年平均成長率(CAGR) 12.6%で成長し、2031年には44億3,000万米ドルに達すると予測されています。この成長は5G通信やIoTデバイスの普及によって牽引されています。 - 村田製作所の極小シリコンキャパシタ量産開始
村田製作所は200mmウエハー生産ラインを新設し、厚さわずか50μmの極小シリコンキャパシタの量産を開始しました。この技術革新により、携帯端末市場向けに高性能かつ小型のIPDが提供されることになります。 - X-FAB社の新IPD製造能力発表
X-FAB Silicon Foundries SEは、新しいIPD製造能力「XIPD」を発表しました。XIPDは130nm RF SOIプロセスをベースにしており、高周波性能と小型化を両立させたRF IPDの製造を可能にします。
IPDとは?
IPDの定義
集積型パッシブデバイス(IPD)は、抵抗器、コンデンサ、インダクタなどの複数の受動部品を1つのパッケージに統合した電子部品です。これらのデバイスは、半導体製造技術を用いて基板上に直接製造されます。
IPDの特徴
IPDの主な特徴は、サイズと重量の削減、製造の複雑さの低減、そして性能の向上です。特に高周波(RF)アプリケーションにおいて、IPDはディスクリート受動部品に比べて優れた性能を発揮します。また、回路基板上のフットプリントの縮小や信頼性の向上にも貢献します。
IPDの利点
IPDの採用により、電子機器の小型化、高性能化、低消費電力化が可能になります。特に5G通信やIoTデバイスなど、スペースに制約のある現代の電子システムにおいて、IPDは不可欠な存在となっています。さらに、製造工程の合理化やシステム全体のフットプrintの削減にも寄与します。
IPDの市場規模
現在の市場規模
2023年の集積型パッシブデバイス(IPD)市場規模は約20億米ドルと推定されています。この数字は、IPD技術の急速な普及と需要の高まりを反映しています。
成長予測
市場調査によると、IPD市場は2024年から2031年にかけて年平均成長率(CAGR)12.6%で成長すると予測されています。この成長は、モバイル機器、IoTデバイス、5GインフラなどのRF(Radio Frequency)用途における需要増加に支えられています。
2036年の市場予測
長期的な見通しでは、IPD市場は2036年までに約100億米ドルに達すると予測されています。この急速な成長は、電子機器の小型化・高性能化ニーズの高まりと、IPD技術の継続的な進化によるものです。
IPDの主な用途
モバイル通信デバイス
IPDは、スマートフォンやタブレットなどのモバイル通信デバイスで広く使用されています。特に5G対応デバイスでは、高周波数帯での性能向上と小型化が求められるため、IPDの需要が高まっています。例えば、AppleのiPhoneやSamsungのGalaxyシリーズなどの最新スマートフォンには、複数のIPDが搭載されています。
IoTデバイス
IoT(Internet of Things)デバイスの普及に伴い、IPDの需要が急増しています。センサー、アクチュエーター、通信モジュールなど、IoTデバイスの主要コンポーネントにIPDが使用されています。特に、低消費電力と小型化が要求されるウェアラブルデバイスやスマートホーム機器では、IPDの採用が不可欠となっています。
自動車エレクトロニクス
自動車産業のデジタル化と電動化に伴い、IPDの自動車向け用途が拡大しています。特に、ADASや自動運転システム、車載インフォテインメントシステムなどの高度な電子機器では、IPDの高性能と信頼性が重要視されています。例えば、テスラやBMWなどの先進的な自動車メーカーは、車載システムにIPDを積極的に採用しています。
IPDの主な種類
RF IPD
RF IPD(Radio Frequency Integrated Passive Device)は、高周波回路で使用される集積型パッシブデバイスです。主に、マッチング回路、フィルター、バラン、カプラーなどの機能を1つのチップに統合します。5G通信やWi-Fi 6などの高速無線通信技術の普及に伴い、RF IPDの需要が急増しています。例えば、Broadcomやスカイワークスソリューションズなどの企業が、高性能なRF IPDを開発・製造しています。
EMI/EMS保護IPD
EMI/EMS保護IPD(Electromagnetic Interference/Electromagnetic Susceptibility Protection Integrated Passive Device)は、電子機器を電磁干渉から保護するために設計された集積型パッシブデバイスです。これらのデバイスは、ノイズフィルタリング、サージ保護、静電気放電(ESD)保護などの機能を提供します。特に、高密度実装が求められるスマートフォンや自動車用電子機器で広く使用されています。TDKやムラタ製作所などの企業が、高性能なEMI/EMS保護IPDを提供しています。
デジタル&ミックスドシグナルIPD
デジタル&ミックスドシグナルIPDは、デジタル回路とアナログ回路の両方で使用される集積型パッシブデバイスです。これらのデバイスは、デカップリングキャパシタ、プルアップ/プルダウン抵抗、フィルター回路などの機能を1つのチップに統合します。特に、高速デジタル回路やミックスドシグナル回路での信号品質改善や電源ノイズ低減に効果を発揮します。テキサス・インスツルメンツやアナログ・デバイセズなどの半導体メーカーが、高性能なデジタル&ミックスドシグナルIPDを開発しています。
シリコンキャパシタIPD
シリコンキャパシタIPDは、薄膜半導体技術を活用して製造される高性能な集積型パッシブデバイスです。これらのデバイスは、小型・低背で、印加電圧や温度変化に対して静電容量が安定しているという特長を持っています。シリコンキャパシタIPDは、以下のような優れた特性を備えています。
- 高信頼性:医療機器や自動車市場向けに適しています。
- 薄型設計:80μmという極めて薄い設計が可能です。
- 高耐熱性:250℃までの高温環境に耐えられます。
- 広帯域特性:60GHz以上の高周波帯域まで対応可能です。
シリコンキャパシタIPDは、スマートフォン、ウェアラブル端末、高速・大容量通信機器、産業機器、車載機器など、幅広い分野で使用されています。特に、高信頼性、耐熱性、小型化、薄型化が要求される市場において需要が拡大しています。村田製作所やIPDiA(現在は村田製作所の一部)などの企業が、高性能なシリコンキャパシタIPDを開発・製造しています。
IPDの技術的な課題
設計の複雑さ
IPDの設計は、複数の受動部品を1つのチップに統合するため、非常に複雑です。特に、高周波回路や高密度実装が求められる応用分野では、寄生効果や相互干渉の管理が重要な課題となります。設計者は、電磁界シミュレーションや高度なモデリング技術を駆使して、最適な性能を実現する必要があります。また、製造プロセスの変動を考慮した設計マージンの設定も重要です。
製造プロセスの最適化
IPDの製造には、高度な半導体製造技術が必要です。特に、高Q値のインダクタや高容量のキャパシタを実現するためには、特殊な材料や製造プロセスが要求されます。例えば、高周波IPDでは、低損失基板材料や高精度な薄膜形成技術が不可欠です。また、製造歩留まりの向上と製造コストの削減も大きな課題となっています。TSMCやサムスンなどの大手半導体メーカーは、これらの課題に取り組むために多額の投資を行っています。
信頼性と長期安定性の確保
IPDは、様々な環境条件下で長期間安定して動作することが求められます。特に、自動車や産業機器向けのIPDでは、高温、高湿度、振動などの厳しい環境下での信頼性が重要です。また、電気的ストレスや熱サイクルによる経年劣化も考慮する必要があります。これらの課題に対応するため、新しい材料開発や封止技術の改良、高度な信頼性試験方法の確立が進められています。例えば、村田製作所やTDKなどの電子部品メーカーは、高信頼性IPDの開発に注力しています。
IPDのトップシェアメーカー
村田製作所
村田製作所は、IPD市場において世界トップクラスのシェアを誇る日本の電子部品メーカーです。同社は、RF IPDやEMI/EMS保護IPDなど、幅広い製品ラインナップを展開しています。特に、スマートフォンや自動車向けの高性能IPDで高い評価を得ています。村田製作所のIPDは、小型化と高性能化を両立させ、多くの大手電機メーカーに採用されています。
https://www.murata.com/ja-jp/products/capacitor/siliconcapacitors?videoId=5764176263001
Broadcom
Broadcomは、米国を拠点とする半導体大手で、特にRF IPDの分野で強みを持っています。同社のIPDは、高周波性能と小型化を両立させ、5G通信機器やWi-Fi 6ルーターなどの最先端無線通信デバイスに広く採用されています。Broadcomは、継続的な研究開発投資により、IPD技術の革新をリードしています。最近では、ミリ波帯に対応した次世代IPDの開発も進めています。